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レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)は,2番目に多い変性性認知症として,その病態と治療がますます注目されている疾患です。その診断には,臨床診断基準改訂版(2005)5)が広く用いられていますが,この基準を臨床の場で使用する場合,薬剤誘発性(以下,薬剤性)症状との鑑別が必要になる場合がまれではありません。診断基準上の中心症状である「認知症(進行性の認知低下)」中核症状の「特発性パーキンソニズム」と「具体的な内容の繰り返す幻視」は,いずれも高齢者において薬剤性に生じることがある症状でもあるからです。ここでは,幻視を取り上げます。Charles Bonnet症候群を除けば,意識清明下の具体的な内容の幻視は,高齢者といえども特異な症候で,幻視が明らかになることによってDLBと診断されることが少なくありません。それだけに幻視の評価は大切です。
もとより,幻視などDLBの精神病症状は薬剤に関係なく生じるものです。パーキンソン病(Parkinson's disease;PD)とともに神経病理学的にレビー小体病として包括され,精神症状や画像所見もほぼ共通するDLBのこの特性は,PDの精神病症状がその原因に抗パーキンソン薬の影響を想定されているのと対照的といえます1)。ところが注目したいことは,DLBの発見者である小阪憲司先生3)がかねて,「パーキンソン病と診断されレボドパ治療中に特有な幻視が出現したり,軽い認知症が加わった場合〔認知症を伴うパーキンソン病(PDD)〕にはDLBを疑うべきである」との見解を示していることです。後半のPDDの認識に異論はありません。焦点としたいのは前半です。小阪先生の意図は「PDと診断されていても,レボドパなどの抗パーキンソン薬で特有な幻視が出るような症例は,神経病理学的にDLBと同一の特徴を有していると考えられ,臨床的にも将来DLBへ進展する可能性が高い」にあると推察されます。これは言い方を変えれば,まだ診断基準を十分満たさない段階のDLBのいわば前駆症状または初期症状として,薬剤性が疑われる幻視を認めるということです。
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