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はじめに
近年の神経変性性認知症に関する病理・分子遺伝学的研究の進展によって,病理学的背景となる異常蓄積蛋白の構成成分による疾患分類が行われ,鑑別診断には,臨床症状のみならず病理学的背景を考慮することが重要となってきている。神経変性性認知症疾患の中で最も発症頻度の高いアルツハイマー病(Alzheimer’s disease;AD)においては,髄液中アミロイドβ・リン酸化タウの測定やアミロイドイメージング,疾患修飾薬による治療が実施されているように,神経画像,血清・髄液検査などの生物学的マーカーによる早期診断とその病理学的背景に応じた疾患特異的な治療が試みられている。1984年に米国国立神経疾患・脳卒中研究所(National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke;NINCDS)とアルツハイマー病関連疾患協会(Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association;ADRDA)によって策定され,最も使用されてきたADの診断基準では,ADそのものがdementia(認知症)を意味していた。しかし,認知症の前段階における臨床診断が可能となり,ADの早期診断と早期介入の重要性が高まった結果,2011年に発行されたNational Institute on Aging-Alzheimer’s Association(NIA-AA)基準では,preclinical AD,mild cognitive impairment(MCI)due to AD,AD dementiaと病態を意識した前駆期を含む病期分類がなされた12)。すなわち,認知機能低下を認めないもののADの病態が始まっている状態,認知機能障害はMCIレベルの状態,そして,認知症に至った状態である(図1)。
一方,レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)は,ADに次いで頻度の高い神経変性認知症疾患であるが,早期診断に関する臨床知見はきわめて乏しい9,11,13)。現在のDLBの臨床診断基準では,1984年のNINCDS-ADRDA基準と同様に,DLBそのものが認知症を意味しており,前駆状態に関する記載はほとんどない。さらに,DLBの初発症状が多様であり,臨床経過の全貌が十分に解明されていない。これは,DLBと認知症を伴うパーキンソン病(Parkinson's disease dementia;PDD)の異同が明確にされていないこと,記憶障害以外にも注意維持障害や視覚認知障害が初発症状となる場合があること,また,認知機能障害に先行してレム睡眠行動障害(rapid eye movement behavior disorder;RBD)・抑うつ状態・自律神経症状などの多様な精神神経症状を呈することが多いことが理由として挙げられる8,9)。本稿では,まず,現在のDLBの臨床診断基準と最近改訂されたThe Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, fifth edition(DSM-5)を概観し,DLBの前駆状態について考察した。次にDLBの前駆状態の臨床像について,現時点での知見を紹介し,特に認知症以外の精神症状が前景化する症例の問題点について述べた。
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