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はじめに
2008年5月29日の「朝日新聞」夕刊2面(東京本社発行)に,私と同僚の署名入りの記事が載った。記事の見出しは「精神科医,総合病院離れ/病床2割減 閉鎖も相次ぐ」というもので,一般紙としては初めて,総合病院精神科の危機的状況を報じた記事だった(図1)。
新聞が取り上げるのは初めてだったが,すでにその1年前には,日本総合病院精神医学会などが主催する「総合病院・大学病院精神科医療の危機について考えるシンポジウム」が開かれ,医療系の専門誌などがこの問題を特集していた。「危機」はますます進行して見えやすくなり,原因や対応策についてもまとまった見解が発表されていた。したがって取材自体はスムーズに進んだのだが,原稿がほぼでき上がってから記事が掲載されるまでに2か月以上かかった。さらに,この記事に合わせて紙面化しようと東北地方の中核病院の現場ルポも用意していたのだが,こちらは結局,掲載を見送られてしまった。
一般に,記者が書いた原稿はデスクがチェックして出稿する。政治,経済,社会部といった出稿部門のデスクを経て集まった原稿の採否や記事の扱い(どの面に,どのくらいの大きさで載せるか)を決め,見出しを付けるのは編集者と呼ばれる内勤記者の仕事だ。編集者が「この問題は重要だ」「この話はおもしろい」と思ってくれればすぐに紙面に載るし,扱いも大きくなる。ということは,私たちが書いた「総合病院精神科の危機」の原稿に対する編集者の関心はあまり高くなかったといわざるを得ない。記事が出てそろそろ2年になるが,「朝日」以外の新聞がこの問題をまとまった形で記事にした例を私は知らない。おそらく他の新聞社,テレビ局でも編集者の関心は高くないのだろう。
「医療崩壊」という言葉が広く一般社会に浸透し,小児科や産婦人科,救急現場の医師不足の問題は頻繁に報道されるのに,なぜ総合病院精神科における医師不足,医療崩壊は注目されないのだろうか。結論からいえば,精神疾患,精神科医療に対するスティグマの問題が背景にあると私は思っている。そこで,あえて総合病院精神科の問題に焦点を絞るのではなく,少し対象を広げて考えてみたい。
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