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はじめに
共感覚とは「音楽を聞くと色が見える」といったような,ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚を生じる知覚現象であり,近年は盲人の共感覚・メタファー(比喩表現)などの学習された共感覚など,広義で使われる傾向がある4)。しかし狭義のそれは幼少時より発現し,学習によるものではなく,自動的で一定して起こるものをいう。(狭義の)共感覚は全か無かの特性(持っているかいないか)を持ち,疾患とはされず,むしろ創造性や高い記憶能力などとの関連が報告されている3,5)。これは主観的体験であるため,かつては科学的解明が困難であったが,近年f-MRI,事象関連電位,PETなどの脳機能画像研究などにより,特に文字→色の共感覚において,関連脳部位として紡錘状回,下側頭回などが注目されている。さらにdiffusion tensor imagingを用いた脳構造研究においては,白質の線維連絡の過密が報告9)されている。また共感覚の原因についての仮説としては以下のようなものがある。(1)なんらかの偶然により脳内の線維連絡に混線,すなわちクロス配線が起こる8),(2)新生児期に存在する脳内回路が残されているために起こる5),(3)感覚経路における「逆向きに送り込む」働きが異常なほど強い(すなわち単一の感覚を扱う領域と複数の感覚を扱う領域とは双方向に連絡されており,通常後者から前者へ進む働きは抑制されているが,この抑制が弱まるために起こる)4)などがある。
ところで,共感覚者は幼少時より精神病者と思われないために症状を隠蔽することが多く3),このことは人格形成上も影響が出ることが考えられる。このことに関連して,Cytowic2)は多数例の検討において,MMPI(Minnesota multiphasic personality inventory)では明らかな性格傾向はみられないとする一方,きちょうめん・きれい好きなどの性格傾向を有することが多いとしている。また精神疾患との関連では,うつ病罹患期に共感覚の訴えを呈し,うつ改善後は消失した症例7)など,精神症状として共感覚を呈した症例の報告はある。しかし薬物乱用以外で,共感覚に精神疾患を合併した症例報告は,我々の調べた範囲では見つからない。今回我々は(狭義の)共感覚者に気分変調症を合併し,共感覚症状によりうつ状態の悪化を呈した気分変調症の1例を経験したので,若干の考察をふまえて報告する。
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