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はじめに
近年統合失調症において,その異種性の立場から,Gilbert症候群(Gilbert's syndrome;GS)の合併が注目されている11)。その背景として,疫学研究において,重度の新生児黄疸が統合失調症をはじめとする精神疾患のリスクファクターの1つであるとの報告があり,統合失調症の発症メカニズムの1つとして,ビリルビン(Bilirubin;Bil)の関与がいわれている3)。GSは,体質性黄疸の1つで,一般人口の3~7%に認める。病理としては,肝細胞UGT1A1活性の低下によりBilの肝細胞摂取障害を生じ,それにより間接Bilの上昇(1~6mg/dl)を認めるが,通常無治療でも予後良好とされる18)。一方で,Bilは空腹,運動やストレスによっても上昇し,これらとGSの境界部分ははっきりしないところもあるが16),本邦における精神科新規入院患者のうちT Bil>1.3mg/dlを高Bil血症(GS)とした場合,9%にこれを認め,その中で統合失調症に高Bil血症を合併する頻度(20.6%)は他の精神疾患における頻度(気分障害2.8%,神経症・人格障害4.2%)より有意に高いとする報告がある12)。またGSでは,FLAIR MRI関心領域法による検討で海馬,扁桃体,前部帯状回,島皮質での高信号強度がみられ11),これらの発症機序については高Bil血症による脳障害(アポトーシス)や,神経発達障害の重症度の指標であることが報告されている11)。
次に「身近な人物がそっくりの替え玉に入れ変わっている」といったソジーの錯覚は,その成因論をめぐって統合と拡散の歴史をとっている17)。現在はカプグラ症候群(Capgras syndrome;CS)と命名され,症候論的には初期の妄想型統合失調症を基盤として女性に選択的に生じるまれな症状という位置づけから,機能性および器質性精神病を背景として男女両性に生じる1症状とみなす段階を経由し,近年はフレゴリ錯覚,相互変身症候群,自己分身症候群なども包含する妄想性人物誤認症候群の1類型とする見解が支配的になっている。さらに,CSはすでに確立された症候論的概念ではなく,今なお精神病の心因論と器質因論が遭遇する熱い交点の1つである15,17)。その背景として,CSは妄想知覚の一種ではあるが,これは知覚に伴うものとして1文節性であり,妄想意味を持った妄想知覚の2文節性と異なっており,知覚異常に基礎づけられる程度が比較的大きいことがある10)。
統合失調症にGSを合併した患者の臨床像は,合併しない群と比較して,急性期および病状安定期における臨床症状が重度で,抗精神病薬による錐体外路系の副作用を呈しやすいとされる11)。今回我々は,GSに統合失調症を合併し,急性期にCSを呈した1例を経験したので,主にその発症機序について考察する。
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