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はじめに
悪性緊張病は昏迷・興奮などの緊張病症状に発熱・発汗・頻脈・血圧変動などの自律神経症状,筋緊張亢進などを伴い,時に死に至る病態である。かつては致死性緊張病といわれ,死亡率も高かったが,近年は身体管理の進歩などにより予後も改善しており,PhilbrickとRummans11)は悪性緊張病という呼称を提唱している。本疾患は症状が抗精神病薬の重篤な有害事象として出現する悪性症候群に類似しており,臨床的にはしばしばその鑑別が問題になる。この点に関して,両者の鑑別は困難であり意味がないとする立場もあるが7),一方Castilloら4)は症状の違いに着目している。すなわち,悪性症候群では鉛管様の著明な筋強剛と発汗・発熱などの自律神経症状,さらに意識障害を特徴とするが,悪性緊張病では焦燥・興奮・不安などの前駆症状の後,自律神経症状と意識障害を認めるものの,筋強剛はめだたないとしている。
ところで,近年性同一性障害の受診が急増しているが,その背景にはホルモン療法・性転換術が正当な医療行為として認められたことと,戸籍の性別変更が可能になった(特例法)ことが関係していると推測されている1)。性同一性障害と性嗜好障害とは別の問題であるとされ,前者が生物学的性と性の自己意識の不一致からくる悩みであるのに対し,後者は性志向性の問題であり同性愛も含まれる。性同一性障害においては,性別に関する違和感を有するものを広く性別違和症候群ととらえ,その中に自己の性に対する嫌悪感や反対の性に対する同一感を有する性同一性障害と,反対の性であるという強い確信のもとにホルモン投与や性転換術までも行おうとする性転換症を含めるとされる15)。
今回我々は,性別違和症候群に悪性緊張病を合併し,その前駆症状として男女の人格交代を呈した興味深い症例を経験したので,若干の考察をふまえ報告する。なお,症例の報告については患者より同意を得ており,また個人情報保護に配慮して事実に影響を与えない範囲で適宜修正を行った。
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