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はじめに
退院促進は,今や精神科病院の直面する今日的課題の1つであり,各地で活発な取り組みが行われている4)。山梨県立北病院(以下,県立北病院)でも,2001(平成13)年の秋から長期在院者の退院促進への取り組みを開始し,2002(平成14)年に作成された「機能強化プラン」3)により退院促進を計画的かつ組織的に押し進めてきた。
県立北病院の退院促進は,他の精神科病院へ転院させない方針を極力貫いたものであり,一部の病院に聞かれるような転院主体の退院促進とは異なっている。退院促進にこのような徹底した態度が貫かれたのは,患者主体の医療理念が病院開設当初から職員の間に伝統的に育まれていたからであり,欧州の病院における病院改革2)を目の当たりにした藤井院長による留学経験が臨床の場に生かされたからでもあろう。また,山梨県には精神科病院が少なく,転院先が容易に見つけられないという地域特性もある。
先の機能強化プランでは,改修工事により病室が個室化されるとともに1病棟(定床65)が閉鎖され「100床の病床削減」が図られた。また,閉鎖された病棟のスタッフは,院内の他部門を強化するスタッフとして再配置され,急性期治療(救急入院料算定病棟開設による治療機能と収益性の強化)と外来治療機能(すなわち,デイケアスタッフ増員によるデイケア利用枠の拡大や訪問専任スタッフ増員による訪問件数の増加)が強化されることになった。病院管理部門では,さっそく,100床削減を可能とする長期在院者の退院促進推計を行い,それに基づく退院促進が地道に行われた結果,2002(平成14)~2006(平成18)年度の5年間に延べ169名の長期在院者を退院させることができ,2007(平成19)年度から新体制をスタートさせることができた。県立北病院における病床削減(ダウンサイジング)と機能強化についての詳細は,藤井により余すところなく報告されている3)ので参照されたい。
さて,退院促進が予定通りに進まないと,関係者の間からは他院へ転院させようという発想が自然に生まれるものである。藤井はかつて本誌の「巻頭言」において,このような危険な誘惑をダウンサイジングへの「悪魔の囁き」と自戒をこめて名づけた1)が,県立北病院の退院促進は,他院へ転院した者の割合が少なく,1割程度にとどまり,自宅,もしくは,精神障害者居住施設への入居,すなわち地域移行した者の割合が過半数を超えていた。自殺したり,重大犯罪に走る者もいなかった。しかし,退院した長期在院者の中には症状悪化や生活破綻などにより再入院する者もおり,再入院が再び長期化して退院のめどが立たない者も出てきているのが現実である。
5年間に及ぶ退院促進の途上では,長期在院者の退院促進が予想外に早く進み,病院に空床が見る間に増加してくることを筆者らは経験した5)。退院促進とは,新規入院者や元長期在院者の入院要請にもスムーズに応じられるよう適度に空床を確保しつつも,経営的には健全性を保ちながら病床を計画的に削減しなければならないという難しい舵取りが常に求められる状況なのである。地域移行を無理に行えば,患者に自殺や重大犯罪などの取り返しのつかない事態が起こるのではないかと憂慮する向きもある6)。県立北病院の退院促進は,しかしながら,その後に開設された定員20名の退院支援施設を除けば,最初の4年間は,新たな地域居住施設の開設もなく,入院中の退院指導を強化したりデイケアや訪問などの地域生活支援システムを積極的に活用しただけで進行したものである。しかし,当時の関係者にとっては,退院させた患者がどれくらい再入院してくるのかわからず,治療機能強化後の病院にとっては,「スーパー救急病棟」の運用とともに急増する新規患者への対応を行いながら,元長期在院者の再入院にスムーズに応じきれるのか,かなり不安であった。
そこで,本研究では,退院促進の5年間に県立北病院から退院した長期在院者に再入院がどれくらいあり,再入院による病院側の応需負担はどの程度あったのか,退院後平均3.1年を経過した長期在院者69名の調査データにより検討を行った。退院後の再入院パターンについても検討した。さらに,再入院が長期化した例については,再長期化の要因についても考察した。このような検討を通して,長期在院者の再入院状況と病院の応需負担について病院の立場から考察した。
We evaluated the burden on our hospitals placed by readmissions of 115 ex-inpatients who had long hospitalization period of more than 1 year, using the following 3 indices:readmission rates, readmission period/observation period ratio, and number of occupied bed-years. Among the ex-inpatients, 69 met the inclusion criteria of the study. Of these, 52 were in the community and 17 were in public institutions after being discharged from the hospital for the first time. Over a 3.1-year observation period, 39 ex-inpatients were readmitted to our hospital with a readmission rate of 56.5%, readmission period/observation period ratio of 0.164, and a total of 11.3 occupied bed-years, which signifies a high rate of readmission among subjects and relatively low hospital burden, allowing a reduction of 58 occupied bed-years. Since 10 of the 69 subjects had at least 1 readmission period exceeding 1 year, ex-inpatients should be seen as a high-risk group susceptible to long hospitalization. A well-designed community care plan is essential for their management.
We observed 5 types of readmission patterns for 69 subjects, namely “successful”, “occasional”, “frequent”, “unsuccessful”, and “prolonged”. Management of “unsuccessful” and “prolonged” admissions is considered particularly important, since this will enable a further reduction in hospital burden.
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