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はじめに
わが国の精神科医療は,多くの国々と異なり,民間にその多くをゆだねてきた。
措置入院も,急性期治療も,そしてまた医療観察法も,民間精神科病院の力を借りながら,そのシステムを作ってきた。
いい悪いは別としてそれが現実のことである。そして,それは今のところ,これからも変わらないように思われる。
そのような歴史の中で今,施策は「入院中心から地域生活中心へ」という,スローガンを掲げている3)。このスローガンによって,これからを切り開こうとしている,ようにみえる。
もしそうであるならばで,今までの歴史をひっくり返すような大転換でもない限り,――たとえば,公的精神科病院や精神保健福祉センターに十分な財源を投下して,地域精神医療の中核に育てていく,という合意でもない限り――我々の未来は,この民間の精神科病院の力をいかに活用できるかにかかっているといっても過言ではなかろう。
さて,「病床削減」である。この言葉を発するときに,その削減する主体は誰と考えるとよいのだろう? 施策の中に組み込まれての話なので,号令は厚生労働省が発し,都道府県が数値目標を掲げ,そして民間精神科病院のオーナーが決断をする,と考えてよいのだろうか。その場合,民間精神科病院のオーナーはリストラを覚悟で断行するのであろうか。それとも,この「削減」をリストラ抜きで実行するために,オーナーは自分たちで同時にやりくりを考えなければならないということなのだろうか。それとも,厚生労働省のほうからインセンティブが示されて,やりくりの方向性は定まると考えていいのだろうか。その場合,それは「地域生活中心」という,ミッションに沿った方向性なのだろうか。
筆者の見るところ,そのあたりの具体的なビションは,明確でないように思う。「なんとなく」「流れのままに」そうなっていくだろう,という憶測の域を出ていないように思う。「高齢化した入院患者の自然死によって,緩やかに病床数は削減するさ」という会話まで,ちらほら聞かれるくらいである。この雰囲気と,先のスローガンのギャップははなはだしい。
スローガンを,精神科医療の利用者が利益を得るシステム作りという方向で考えれば,「精神科の入院病棟は急性期に特化した機能に極力近づけ,従来,慢性病棟で診てきた患者群は地域生活を送る中で診ていけるように,精神科医療の外来・在宅部門の充実を目指す」という方向にはならないだろうか。
本論では,筆者に与えられたテーマである「ACTは病床削減に貢献できるか」を,この文脈の中で考えていきたい。
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