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はじめに
近年,脳画像・神経生理学的・神経心理学的検査法の発達により,統合失調症などの精神疾患における,脳機能・脳形態の異常についての非侵襲的な解析が可能となった。その結果,精神疾患における微細な脳構造上の問題を死後脳研究によっていっそう明らかにする必要が生じた。死後脳サンプルが,研究のための非常に重要なリサーチリソースであることは明らかである。
ブレインバンク運営に求められる条件には,①厳正な倫理ガイドラインの遵守,②国際的標準化手順の採用,③訓練されたユーザー,医療提供者,研究者の自発協力が挙げられる。倫理ガイドラインについては,病名告知に基づく研究参加への同意と生前登録(死後に脳を提供することを本人に生前に登録していただくこと)が望ましく,生前登録の際の同意書に含まれる内容としては,①プライバシー保護の保証,②死後脳の使用・保存法,③臨床病歴の使用,④遺伝子研究への使用,⑤同意撤回の自由がある9)。
本邦では,欧米に比較して精神疾患ブレインバンクの整備が遅れており6,7,10,12),精神疾患の死後脳研究において,ブレインバンクのネットワークを用いた研究を行うことは容易ではない。一方,日本にいながら,海外のスタンレーブレインバンクやハーバードブレインバンクなどの脳サンプルを用いた研究を行った場合,多額の日本の研究費を使っても,得られたデータは海外の脳バンクに帰属するという不遇が生じるという。これらの事態に対処するために,ここ数年,本邦のブレインバンクの整備を目的として,国立精神・神経センター,理化学研究所脳研究センターなどで,ブレインバンクに関する検討会が開催されてきた。
我々は,精神疾患ブレインバンクの運営にかかわる立場から現状とその問題についてすでに報告したが9),本稿では,本邦のブレインバンクについて,主として研究者の観点から論じたい。
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