巻頭言
認知症ケアから学ぶ
長谷川 和夫
1,2
1浴風会認知症介護研究・研修東京センター
2聖マリアンナ医科大学
pp.420-421
発行日 2008年5月15日
Published Date 2008/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101202
- 有料閲覧
- 文献概要
私が老年精神医学ことに認知症の医療にかかわりを持ったのは,1968年頃からと記憶している。当時からみると,脳の基礎科学の進歩にともなって認知症の医療は目覚ましい進歩をとげた。特に画像診断やアルツハイマー病の薬物療法の開発などは,早期診断と早期治療の道を確実にしたと考えられる。しかし,課題は山積している。
特にこれまでの認知症医療は,あまりにも認知症の原因疾患の分類や診断などに関心が集まりすぎた感がある。治療の場面で最も厳しい状況は,認知症のいわゆる周辺症状といわれる行動心理症状である。BPSDと略称される。興奮,攻撃行動,徘徊,妄想など問題行動ともいわれるが,行動を起こす原因や内的体験の理解こそが実は治療につながる可能性を捨てて,ただちに精神薬物療法に解決を求める傾向を否定できない。認知症を持つ人ではなくて,認知症自体を治療の対象とする傾向があったことは否めない。一方で介護あるいは看護などの領域では,認知症の人と家族の暮らしを支援する現場にいるために,当事者の安寧に医療よりずーっと近くに位置していた。そしてケア専門職等から医療に対する不信感が生まれてきていることに気づかされる。医療も介護もルーツは同じ理念を持っているとの考えから,専門知識や技法あるいは専門性の向上があったにせよ,両者の連繋はこれからの認知症の医療とケアには欠くことのできない課題であろう。
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.