Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
「薬理遺伝学と薬物相互作用に関する展望を」という趣旨での原稿依頼を頂戴した。両者はおのおの一見すると独立したテーマのように見えるが,実は「薬物療法を開始する前に知っておくと便利な知識」であるという点では共通項を有する。
薬理遺伝学は薬物動態学的および薬力学的な薬物反応の個人差を扱う学問である。薬物を分解・代謝する能力は誰しもが同じなわけではなく,また,薬物の作用部位である神経伝達受容体の感受性も個別に異なるようなのである。したがって,臨床実践面においては,代謝能力が異なれば薬物投与量の調整が必要となり,受容体感受性が異なるのであれば個別に合った薬種選択を考慮せねばならなくなる。しかも,これらは遺伝的に決定された一種の体質であるらしく,それらを遺伝子レベルで解明しながら,合理的薬物療法に向けて遺伝情報の臨床応用化を目指すところが薬理遺伝学の目標となる。
一方,薬物相互作用は,簡単に言うと,「1+1=2となるとは限らない」薬物同士の併用例を集大成したものである。特に,我々が日常使用する向精神薬同士においては注意を要すべき組み合わせが少なくない。主として薬物動態学的な相互作用がクローズアップされることが多く,薬物代謝の誘導・阻害といった相互作用機序の法則を知っておくと,併用前に投与量の調整を図ったり,それらの組み合わせを回避したり,などの対策をあらかじめ立てることが可能となるので,併用後の予期せぬ副作用発生や効果減弱に慌てることが少なくなるであろう。
向精神薬領域における薬理遺伝学および薬物相互作用学に関しては,研究手法の洗練化とともに,精力的かつ着実にその解明が進んできており,日進月歩ではあるが手応えのあるエビデンスが次々と集積されつつある。確かに,それら新知見自体の再現性の困難さや今後の研究手法の統一化の必要性など,諸問題は見受けられる。ただ,直感的に,将来的な臨床応用可能性について,曇り時々晴れくらいの近未来展望を見ようとするのはいささかオプティミスティックに過ぎるであろうか? 本稿では,このような薬理遺伝学や薬物相互作用の現状における知見を,精神科薬物療法の実践の中にどのような形で生かすことになるのか,について展望してみたい。
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.