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はじめに
わが国のアルコール消費量は,1965年以後1993年頃まで急速に増大していたが,「バブル景気」が崩壊してから後は最近までおおむね横ばいの状況が続いている。飲酒にまつわる最近の話題として,生活習慣病あるいはメタボリックシンドローム,さらには自殺の危険因子の一つとしての多量飲酒の問題と,2006年8月に福岡市内で幼い3人の命が失われた事故をはじめとする飲酒運転事故の問題がある。飲酒運転を繰り返す者にアルコール依存症あるいはその予備軍に当たるものが高率に含まれることは以前から指摘されており4),今後の飲酒運転防止の対策には,司法,行政からの厳罰化というアプローチだけでなく,アルコール依存あるいはその予備軍に対する医療としての早期介入が重要と考えられる。
2003年に樋口らが行った全国調査7)では,ICD-10の診断基準に基づくアルコール依存症患者の有病率は,男性の1.9%,女性の0.1%で,全体で0.9%と推定され,この値からわが国のアルコール依存症患者の数は推計で82万人と報告されている。この82万人の中で,アルコール依存症として治療を受けているものを,厚生労働省の患者調査で見ると,わずかに5万人程度である13)。アルコール依存症として治療を受けていない他の多くの者は,医療を受けないで生活できているか,あるいは精神科ではなく一般科の医療機関でアルコール関連疾患や酩酊時の外傷などで治療を受けているものと思われる。こうした状況の背景には,わが国の一般市民のレベルでは,いまだアルコール依存症に対する偏見や精神科受診に対する抵抗感があるものと思われ,身体的あるいは社会的,家庭的に切迫した問題を抱えた,アルコール依存症患者の中でもとくに重篤な患者が精神科で専門治療を受けているという現状にある。こうした状況からすると,わが国では少なくとも,アルコール依存症の早期介入においては,アルコール依存症予備軍への予防的介入よりも,アルコール依存症患者がアルコール依存症として専門治療を適切に受けるように指導,介入することが現実的でより重要なのである。
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