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大学を卒業した後に,医師として働く場所はさまざまである。附属病院を含めた大学の医局,公立や私立の病院,クリニックなどの診療所,国や県の行政職,研究所などに大きく分けられる。過去には,ほとんどの精神科医にとって大学の医局は卒業後に社会人として最初に経験する職場であり,精神科医としての考え方を含めた医師としての基礎を身につける場所であった。また,精神医学に関連する臨床的あるいは基礎的研究を初めて体験し,発表する場所でもあった。ところが,2004年4月から導入された新医師臨床研修制度の結果,大学で初期研修を行う医師に変化が現れた。研修医の研修先は,この制度が開始された2004年度には大学病院(73%)が地域の臨床研修病院(27%)に比べて圧倒的に多かったが,2006年度には大学病院(48%)が地域の臨床研修病院(52%)より少なくなり,2007年度には大学病院(45%)がさらに減少する一方,地域の臨床研修病院(55%)は増加し,両者の格差は拡大し,研修医の大学病院離れが進行していることが明らかになっている。
その結果,大学の精神科医が不足し大学や大学病院の運営はますます窮地に立たされている。しかし,いつの世もすべてが満ち足りてうまくいくという状況ではないので,精神科医として充実した教育や臨床が受けられる環境が重要であると考える。私自身,大学での勤務経験が長く,それ以外に,自治体病院の精神科医長や民間の精神病院の病院長も経験したことがあるので,それぞれの良いところや悪いところを見てきた。それぞれの職場においては楽しいことと嫌なことはあるが,再び大学に戻ってみて,大学の医局は結構楽しいことに気がついた。知的好奇心,じっくり患者の精神症状と向き合うことができる,必要な知識がすぐに手に入るなど,圧倒的に大学での精神医学は魅力的である。
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