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はじめに
統合失調症では精神症状の背景に特有な脳機能の障害がみられ,それは意識障害でも知能障害でもなく認知機能の障害といわれている。この認知機能は注意,記憶(ワーキングメモリー,短期記憶),実行機能など幅広い機能を包含している。そしてこれは以前から事象関連電位,眼球運動検査,心理学的課題検査などで抽出されてきたが,診断や治療との関連が不十分であったため,あまり注目されなかった。近年神経画像,分子遺伝学・精神薬理学などの研究の進歩に伴って認知機能障害がより実体的なものとして把握できるようになり,統合失調症の中心的な障害であることがわかってきている。
筆者らはこの漠然として把握しにくい認知機能障害を臨床観察と密接に結びついた方法で抽出してきた。すなわち一定の指示を与えて幾何学図形を提示している際の注視点の動き(探索眼球運動)を記録し,視覚認知機能を解析してきた。注視点の運動数,移動距離などの要素的な指標の他に対象のどこを見ているかという解析を行い,より高次の機能についても解析した。ものを見る場合受動的に見ているのではなく,何らかの動機,関心,興味などによって方向性(スキーマ:構え)をもって探索し,探索した結果に基づいてスキーマが変化し,その変化したスキーマによって探索する。このような循環の中で知覚が生じ情報を得ているという18)。見ることは受動的な現象でなくて常に能動的な動きが基盤にあって知覚,認識がなされていると考えられる。健常者では意図せずに自然に働いているこの能動性が統合失調症で障害されていることが精神病理学的研究ですでに指摘されている4)。また,このことは日常臨床で統合失調症患者が示すプレコックス感25),対人反応の障害32)として述べられている現象とも密接に関連している。このように筆者らが行ってきた研究は日常臨床の観察,精神病理学的洞察を客観的に検討した研究という点で特徴がある。別な言い方をすれば,注視点の解析は統合失調症の認知機能の基本的な特徴に合った,最も適した方法の一つであるともいえるかもしれない。
本稿では①この指標は他の認知機能を表す指標と関連があるか,②生理学的背景(中枢神経回路)はどのようなものか,③分子遺伝学的基盤を示すことができるか,④これらの基盤を有する探索眼球運動を用いて統合失調症の補助診断装置として臨床応用できないかという4つの問題について研究・検討した結果を報告する。
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