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本書は昨2002年に「日本精神神経学会」が創立百年を迎えたのを記念して発刊されたものである。学会の歩みがわが国の近代精神医学,医療の歩みそのものであることが,本書によって克明に再現されている。周知のように英仏米などの欧米の精神医学会機関誌が1990年代にこぞって150年記念号を出版した。つまり,わが国の精神医学,学会機関誌は彼らより50年あまり遅れて出発したことになる。このことは内村祐之(以下敬称略)が「日本精神医学の過去と未来」と題する本学会50回総会記念講演において「ハンディキャップの大きさ」とすでに指摘している。とはいえ「後手の先手」というが,遅れて出発したとはいえ,呉秀三などわが国精神医学のパイオニアたちの先見の明により世界をリードしていた当時の欧州精神医学,医療の最良のものがわが国へ移入され,彼らの叡智と情熱,努力によってまがりなりにも近代精神医学が本邦に定着していったことは現在の時点から見ても高く評価される。ただし欧州とは言え,前記内村も指摘するごとくドイツ精神医学に著しく偏していた日本精神医学・医療のその後の歴史的展開の評価,その功罪は現在時点で鋭く吟味されねばなるまい。つまりはアングロサクソン系の実践的精神医学・医療の欠落である。
本書は892ページからなる本篇と学会議事録,全国大学医学部精神医学講座と精神医学関連学会,団体などを収録した368ページからなる資料篇の2巻から構成されている。さらにはデジタル情報化時代にふさわしく,資料篇巻末にはCD-ROMが付いている。創刊当時から最近までの学会機関誌の総目次索引がData base版に納められ,著者索引などの検索が極めて簡便になっている。さらにはPDF版では精選論文49編が採録されており,入手しがたい古典的論文が手軽に読めるようになったことは大変ありがたい。すでに物故された先達者,恩師や先輩たちの名前と論文名が液晶ディスプレイにズラリと並ぶとまさしく古典が新たな生命を与えられて蘇生し,学問の永続性を実感し,新鮮な感動すら覚える。
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