書評
小児のうつと不安―診断と治療の最前線
齊藤 万比古
1
1国立精神・神経センター国府台病院精神科
pp.1373
発行日 2006年12月15日
Published Date 2006/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100817
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本書は,論旨の明快な理解しやすい書であり,その意味で学術書である前に啓発の書であると言えるだろう。第1章「小児のうつ病」の最初の論文である「Ⅰ.小児のうつ病は見逃されてきた」の題そのものに,本書の主張は明らかに示されている。すなわち,DSM-Ⅲ以降の成人のうつ病診断用の基準を子どもに適用しても,大人のうつ病と同質な症状群を抽出することができるという「取り決め」と,20世紀末から隆盛を誇る抗うつ薬のSSRIの小児への適用拡大という2つの潮流が大きなうねりとなって「小児のうつ」という概念を際立たせてきた近年の欧米の動向を,わが国に紹介し導入しようとする姿勢を本書は意欲的に示していると評者は感じた。第1章の「Ⅳ.症例提示」で示されている症例Aは大うつ病性障害の症例,症例Bは気分変調性障害の症例,症例Cは摂食障害と合併した軽症うつ病症例で,いずれもSSRIないしSNRIの投与により劇的に改善している。こうした症例から著者は,子どものうつ病の薬物療法における第一選択薬をフルボキサミンとして,薬物療法と認知行動療法との併用を推奨しているのはその好例であろう。
本書の後半は第2章「小児の不安障害」である。子どもの発現する分離不安障害,パニック障害,社会不安障害,強迫性障害,外傷後ストレス障害について要領よくコンパクトに論述した論文が並んでおり,このまま子どもの精神医学を学ぶ専門家のテキストとしても使用できる内容となっている。
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