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はじめに
多剤併用はまずい。副作用が出ても,起因の薬剤を特定することがしばしば困難となり,どれが有効な薬剤かがわからず,軽快時の減量をどの薬剤から始めるかを決めるのも困難となる。また,薬物代謝酵素の活性に影響する薬剤と,その酵素で代謝される薬剤とを併用してしまうと,血中濃度や脳内濃度が大きく変動してしまうことになり,薬物療法を不確実で危険なものにしてしまう。しかし,経験と勘だけが頼りで,多剤併用になってしまう愚は避けなければならないと日々自戒しながらも,単剤での効果が得にくいと,他剤に切り替えることを繰り返しているうちに,治療期間が延び,少しでも有効であった薬剤を残して次第に多剤になってしまうことがしばしばある。
一方,大うつ病性障害でも統合失調症でも生物学的な病態の異種性が指摘されるとともに,抗うつ薬にしても抗精神病薬にしても根治的で理想的な薬剤があるわけではないので,単剤で治療しても有効性が得られない症例や,個別の症状に対応するためにオグメンテーション療法や多剤併用療法をそのエビデンスに基づいて施行しなければならないのも当然である。しかし,残念ながらそのエビデンスは乏しく,しかもその多くは数週間~数か月の治験で得られたものであるので,日常の臨床で数年にわたって治療的にかかわらせてもらっている現実の場面との間にはギャップがあり,また,エビデンスには同意の得られようもない興奮・昏迷を呈する重症例や自殺リスクの高い症例は含まれてはいない。まして,個々の症例の症候に対するきめ細かで最善を尽くす薬物療法を確立するためのエビデンスはきわめて乏しいという現実がある。
本特集ではオグメンテーション療法か,多剤併用療法か,それともあくまで,単独療法のスイッチングだけで対応するかが取り上げられている。いうまでもないが,オグメンテーション療法は,たとえばある抗うつ薬の無効例や低反応例に対し,併用する薬剤自体には抗うつ効果はないか,あってもごく弱い薬剤を追加してその抗うつ薬の効果の増強を図る療法である。RCTも含めてエビデンスはそれなりにある例が多い2)。一方,コンビネーション療法は薬理作用の異なる抗うつ薬や向精神薬を組み合わせて,単独では対処しにくい,たとえば精神病症状を伴う,あるいは不安・焦燥の強いうつ状態に対する多面的な抗うつ作用を引き出し,うつ状態全体を改善する療法である。しかし,この療法のエビデンスはきわめて少なく,あってもエビデンスのレベルが低いことが多く,経験的な併用療法となりやすい。したがって,理論的根拠のあるコンビネーション療法の効果に関する臨床治験成績をしっかり蓄積して安全にこの療法を実施していくことが求められている3)。
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