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医療をめぐる環境の激変により,医療安全にかかわるリスクマネージメントに関する議論が盛んに行われるようになっている。よく引用されるのが重大な事故1件に対し,その背後には同種の軽度の事故が30,そして同種のインシデントが300あるというハインリッヒの法則である。現役医師であり同時に弁護士の資格も持つ寺野彰氏(獨協医科大学学長)と古川俊治氏(慶応義塾大学医学部外科助教授)の対談4)で増加傾向にある医事紛争のことがわかりやすく解説されていた。古川氏によると医療過誤は患者取り違えや薬剤の誤認などのうっかりミスの範疇に入る「実行上の過誤」と,医療水準が問題になる「計画上の過誤」に大別される4)。「実行上の過誤」は注意義務違反によるもので重大かつ社会的影響が甚大なものでは刑事裁判になる。「計画上の過誤」は注意義務違反,説明義務違反,不勉強などさまざまな要因が絡んでくる。最近では内科・外科領域などで医療行為において事故がなかったとしても説明義務違反が問われる状況になってきている2)。このような時代の流れは早晩,精神科にも押し寄せるのは必至である。医学教育に携わっていると知識だけでなく「望ましい行動を取ること」が目標であると学生に教えるわけであるが,時代の流れを受けて,「望ましい行動を取れる=安全な医療を行える」ように我々自身の行動を変容させていかなければならない。
注意義務違反が判断されるとき,結果予見義務,結果回避義務が問われる3)。注意義務違反が問われるのは,予見できてかつ予見結果の発生も回避可能であった状況で,回避策を講じていなかった場合である3)。予見できる危険がある場合,本人・家族にそのことを説明しなければ,結果回避の努力を怠ったということになる。たとえば,およそすべての副作用は予見できるものとみなされる。起こり得ること,起こった場合の連絡方法(「○○が出たらいつでも受診して下さい」など)などを説明し,それを診療録に記載することがこれからは必要であろう1)。最近では,うつ病の治療にSSRI が頻用されているが,他科受診がある場合,そこでの処方内容については詳細に尋ねる必要がある。SSRIとの併用禁忌があれば,そのことを認識している旨を診療録に明確に記載する必要がある。このことは主治医が引き継がれた場合でも事故を未然に防ぐ手だてになる。不作為による因果関係の立証は一般的に困難とされてきたが,最近では不作為によって危険の予見を察知することを逸した場合も注意義務違反になる可能性も出てきている3)。難しいことではなく,薬物療法中の定期的な採血,心電図,脳波などの検査の実施がその一つである。いうまでもなく,実施したら,その結果と解釈を必ず診療録に記載する1)。そうでなければ,検査を実施したが,その結果を把握していなかったということになりかねない。また今後は,うつ病では糖尿病,アルコール依存などの日常生活指導が十分でないと問題となるケースも考えられる。もちろん糖尿病が見つかれば内科併診を依頼するわけであるが,依頼後は自分は関知しないということでなくて,内科医と連携してフォローするということが重要なのである。
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