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臨床神経学の権威3名が「失行」を語る
本書は,わが国におけるこの方面のエキスパートの先生方3人が座談会形式で率直に意見を交換して,それをかなり忠実に文章化したものであり,これまでに失行に焦点を絞った著書がないこともあって,極めてユニークな本になっている。神経心理学のなかでも行為は言語に次いでヒトの最も本質的な機能であるにもかかわらず,その障害の発生機序と生理学的基盤は最も謎に包まれている領域である。本座談会では,河村満先生が種々のタイプの失行をビデオで提示して,それに対して山鳥重先生と今は亡き田邉敬貴先生が意見を述べ,河村先生が説明を加える形式をとっている。3人の先生の特徴がよく現われていて,河村先生の豊富な経験に裏打ちされた鋭い観察眼と,山鳥先生の理論に裏打ちされた卓越した洞察,それに田邉先生の独特な解釈とが統合されて,読んでいて各先生方の表情まで見えるようである。特にこの領域は,その現象を言葉で説明してもなかなか理解しにくいことが多いが,その点本書では河村先生が集められた典型的な失行の貴重なコレクションがビデオで見事に示されており,文字通り「百聞は一見にしかず」である。
脳機能が高次になればなるほど,現われる症候にはかなりの個人差がみられ,また一人の患者でも一種類の失行ではなくて,たとえば観念性失行と観念運動性失行の要素が混在あるいは重複することもまれでないと考えられる。このような場合に,観察された現象を過去に記載された概念に当てはめようとすると困難を感じることが多く,ともすれば用語を弄ぶことになりかねないが,本書では失行の代表的タイプについて明確に定義し解説してあるので,上記のような混乱を防ぐのに役立っている。特に本書では,各章のサブタイトルとして,「ふれる」,「つかう」,「つかむ」,「まとう」,「はなす」,「してしまう」などの日常動作に対して平易な表現が用いられていることは,その理解と分類に非常に有効と考えられる。
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