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はじめに
日本の文化風土の中で創られ育てられた内観療法は,単純であるが脆弱な自我も包み込むような治療構造を持った心理療法で適応範囲も広い。この心理療法を開発した吉本伊信は1937(昭和12)年11月,4回目の『身調べ』で遂に宿善開発,転迷開悟の境地に達した。吉本はその時の心境を「嬉しくて嬉しくてこの大法を出来るだけ多くの人達に,伝授したいとの情熱に燃えた」と記している65)。当時浄土真宗の一派で行われていた修業法「身調べ」で体得した宗教的体験であった。「身調べ」は極めて宗教的色彩が強く,より仏法に近づくための精神修養法であった。吉本によると,1936(昭和11)年ころ本邦の医学および社会福祉界で活躍した富士川遊の『内観の法』にヒントを得て,内観法の創案作りに着手した。富士川の内観には,自分の心を深く調べることを勧めてはいるものの,具体的な方法は示されていなかった64)。
1941(昭和16)年ころ駒沢諦信と相談し脱宗教化と簡易化が進められ,現在の『内観法』に近い形が吉本により考案された64)。まず矯正施設でその効果が確認され,その後家庭・学校・職場の精神衛生の面にも応用された。吉本は1968年に内観3項目を考案し,内観療法の治療構造と技法はほぼ確立された。1978年に日本内観学会が設立され,この20数年間莫大な症例報告や応用に関する有意義な検討がなされた。1998年には日本内観医学会が結成され,内観療法の医学への応用と理論的構築が推進されることになった。
内観療法の背景には日本人の人間関係や文化に関係する仏教哲学がある。したがって極めて東洋的心理療法であるが,普遍性も備え欧米のクライエントに受け入れられつつある。まずは内観療法の歴史と本心理療法と日本浄土思想との関連について述べる。
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