巻頭言
分裂,統合,それから
内海 健
1
1帝京大学医学部精神神経科学教室
pp.4-5
発行日 2004年1月15日
Published Date 2004/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100404
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「精神を無理に統一しようとして病気になるから『精神統一病』です」。もう20年ほど前の伝聞であるが,神田橋條治はつとにこう患者に語っていたとのことである。また中井久夫は,「彼等は人格の統合性の危機を感じていると同時に,無理に統合しようとしてかえって解体に傾くのではないかとも見られる」といったフレーズを,折にふれて発信している。だが今やどれほどの精神科医がこうした逸話を知っているだろうか,あるいは,そこに込められたschizophreniaの精神病理のさわりを理解できるだろうか。そう考えるとき,はなはだ心もとない気持ちにさせられる。「統合失調症」の名称が,精神医学界のみならず,あまねく社会に行き渡るなかで,こうした「分裂病」の語り部たちが発した声は,今まさにかき消されようとしているのかもしれない。
考えてみれば至極当然のことであるが,「精神分裂病」も「統合失調症」もschizophreniaの訳語なのだから,語感は相当異なるにしても,行き着く先はBleulerの連合弛緩になる。つまりは障害学説に由来する命名である。確かに統合失調症という病名は,schizophreniaの脱スティグマ化には一定の成功を収めるだろう。だが名称がいわば解毒化されることによって,schizophreniaの徹底した障害者化が促進されることもまた疑いをえない。
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