Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
今日,分子生物学,神経心理学,脳画像などの生物学的見地から得られた統合失調症の知見にはめざましいものがあるが,その病因を一義的に規定する発見はいまだなされていない。大方の見解では,統合失調症はハンチントン舞踏病のような単一遺伝子疾患ではなく,高血圧や糖尿病のようないわゆる生活習慣病と同様に,多数の遺伝子によって重層決定されると考えられている。たとえばβサラセミアがいい例だが,単一遺伝子疾患であっても,重篤な臨床症状を呈する人から,検査で初めてわかる無症候性の人まできわめて多様な表現をとることが少なくないようである。それゆえ,統合失調症発現にかかわる遺伝子レベルから考えても,その表現型はいっそう多様性を増すことは十分予想できる。
統合失調症は,自分が自分であるという自己の統合性に失調を来す,深いレベルでの人格の病だけに,生物学的要因に加えて,社会・文化,さらには個人の心理的要因が複雑に絡み,多くの因子がより合わされてはじめて顕在発症に至る疾患とみるのが妥当である。時代により,また社会・文化により,統合失調症の病像や病型,経過が大きな影響を受けるゆえんである。
たとえば,加藤7)はSchneiderの一級症状21)があてはまる統合失調症は近代西欧文化に親和性があるとの認識から,統合失調症を,病像的には自我障害が前景に出て,社会の西欧化ないし工業化という広義の状況因が優位な「近代文化結合型統合失調症」と,より生物学的な諸因子が強く,病像的には自我障害よりも情動・意志面での障害が支配的な「近代文化独立型統合失調症」の2つの類型に分ける仮説を提示している。
現代の先進国においては著しい人格荒廃に至る症例が減り,全般的に,統合失調症初期状態の増加を含め,軽症化現象が観察され,病像に良性の変化がみられている。さらに,一部の先進国では統合失調症は明らかに減少しているという報告もある。また,統合失調症の治療の場は入院から外来へと明らかな重心移動をみせている。最近,精神分裂病に代わる呼称として採用された「統合失調症」はこうした時代の動向に呼応した病名といえるのではないだろうか。語感として「統合失調症」はより軽症例に見合ったものであり,一般の人にもより受け入れられやすいものである。
本稿では,現代における統合失調症の変化について,さまざまな角度から論じたい。
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.