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はじめに
2004年度の厚生労働省発表によるわが国の子ども虐待相談処理件数は,32,979件であり5年前(2000年度:17,725件)比べ約2倍,10年前(1995年2,722件)と比べ約12倍と増加の一途をたどっている(図1)。虐待の種類としては,身体的虐待(非偶発的,反復的,継続的,しつけ・体罰を超えている暴力),性的虐待(大人が子どもに対して,性的満足を満たすために行う行為),ネグレクト(養育者による養育の放棄・拒否,養育の無知)および心理的虐待(家庭内暴力を日常的に目撃させるような極端な心理的外傷を子どもに与える行為)が知られている。子ども虐待は,米国で1980年代に注目され始め,深刻な社会問題となったが,わが国で社会的に注目されるようになったのは,図1からも明らかなように,ここ数年のことである。単純計算できる話ではないが,わが国の子ども虐待に関する社会的認知,医学的な積み重ねは,米国に比し10年遅れているといっても過言ではないだろう。
虐待と精神疾患の関係については,これまでも繰り返し報告されており,反応性愛着障害,外傷後ストレス障害(PTSD),解離性障害,反抗挑戦性障害,行為障害,気分障害,摂食障害,境界性パーソナリティ障害(BPD)や反社会性パーソナリティ障害など長期にわたり多彩な精神病状を示すといわれている32)。特に,解離性同一性障害やパーソナリティ障害のように,虐待が被虐待児の人格形成にも大きく影響を与えることから,小児期の虐待は発達期の小児の脳に何らかの影響を与えていることが示唆される。
被虐待児(主にPTSD児)を対象にした過去の生理学的研究においては,強度聴覚刺激に対する反応における馴化の異常21,26),事象関連電位の異常所見20,22),知覚刺激の評価が困難で覚醒水準の調節が困難27),多動の行動パターンを示す過覚醒状態12)などが示されている。これらの報告をまとめて,van der Kolk35)は,被虐待児は,注意集中と刺激弁別に異常が生じているため,刺激に対して検討を行わずに即座に反応する傾向があるとまとめている。以上のように,生理学的の研究からは,被虐待児が健常児とは異なる病態生理を持つことがうかがえる。
近年のneuroscience,特にneuroimaging技術の急激な進歩により,我々はin vivoで間接的に脳内の情報を知ることが可能となり,被虐待児の臨床症状に関連する脳の領域が徐々に明らかにされている。そこで本稿では,小児期の虐待が脳にどのような影響を与えるかについて,これまでのneuroimaging研究で明らかにされていることを紹介し,若干の考察を加えて論じていきたい。
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