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はじめに
「ニート」「社会的ひきこもり」は,マスメディアを中心に注目されはじめ,近年では精神科医療,地域精神保健福祉,教育,就職支援など幅広い領域で関心が高まっている。ニート(Not in Employment, Education, or Trainingの略称)は雇用されておらず,学業もしておらず,職業訓練も受けていない無業者のことを指す。ひきこもりは,「さまざまな要因によって社会的な参加の場面が狭まり,就労や就学などの自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている状態」11)を指す。共に状態像の記述であり,医学的診断や単一の疾患や障害の概念ではない。また定義についても種々の議論がある。
筆者らは,「ニート」「社会的ひきこもり」の支援にかかわる中で,対象の多様性,支援の困難さを日々思い知らされるとともに,回復に寄与する方略を開発する必要性を痛感してきた。そして「ニート」「社会的ひきこもり」に陥っている本人(以下,本人あるいは対象者と呼ぶことがある)が問題となっている行動・状態を変化させ,望ましい状態を習得していく過程に介入する際に,本人の態度や状態を変化させていく意志・動機づけの程度を基準にすることの重要性に着目してきた。
さて行動科学の分野では,多理論統合モデル(Transtheoretical Model)17)という概念が知られている。これは,アメリカの心理学者Prochaskaが提唱した概念で,人の行動の変化に対する動機づけの程度をステージ分類し,そのステージに応じた介入法を用いることで,適切な行動を促進させることを目的としている。米国,カナダを中心に,禁煙,食事療法,医療コンプライアンス改善などの分野で活用され,日本では,糖尿病10),統合失調症療養19)などへの応用が知られている。
近年,「ニート」「社会的ひきこもり」に対して,さまざまな支援が行われ,さまざまな知見が集積されつつある。筆者らは,「ニート」「社会的ひきこもり」に関しても,対象者の動機づけの程度に応じた援助・介入を行い,対象者の変化を促進していくための指針を検討していくことが必要な時期に入ったと考えている。
本論では,「『ニート』『社会的ひきこもり』対象者の動機づけと行動変化に向けての介入のあり方」というテーマに関して,まず①他領域で用いられている,多理論統合モデルを紹介し,②「ニート」「社会的ひきこもり」を対象にした新たな援助モデルの必要性を述べ,③多理論統合モデルを参考に「ニート」「社会的ひきこもり」向けに筆者らが考案・作成した援助モデルを紹介させていただく。
なお,本論で扱うニート・社会的ひきこもりケースは,「統合失調症や中核的な自閉性障害や中等度以上の知的障害などを除き,軽度発達障害まで含めたケース」12)とする。
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