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はじめに
数年前,病院で診療を行っていた筆者らにとって,「ひきこもり」は,統合失調症,強迫性障害,パニック障害などの症状の一側面として捉えていた。これらの疾患にかかると,その一部の人は,不安や恐怖感などがとても強くなり,人と会うことが困難になったり,症状のために身動きできずに,ひきこもらざるを得なくなったりする。外出や対人接触に恐怖感・不安感をもつひきこもり事例では,ひきこもっている本人(以下,「本人」)自らが受診することはまずなく,家族が相談に訪れる。
しかし,保険診療上の枠組みがあるため本人不在のまま援助活動を開始しにくい面もあり,「本人が来ないと始まりませんが…」と伝え,本人が訪れるのを待って診療開始とした。当時,筆者らには関わりの意識として,本人の受診を条件とした医療モデルが前提にあったからかもしれない。一方で筆者は職場を移り,守備範囲がいわゆる地域精神保健福祉にシフトして,出会う事例が変わり,それにつれて接近や介入の仕方も変わってきた。
ひきこもり事例では,家族相談が入り口になることが多い。ひきこもりを抱える家族(以下,「家族」)は本人の世話などの疲れから,精神的健康度の低下がみられることが多い1)。また,家族を本人が訪れるまでのつなぎの相談対象としてとらえるだけではなく,家族を支援の対象とした枠組みで臨むことが望ましいとされる2)。そしてひきこもり家族支援の特徴として,すぐに変化がおきにくいことがあげられる。また,家族に適切な指導・助言を行っても,家族はそれにしたがって多様な行動を取れるとは限らない。
ひきこもりの家族支援では家族が段階的に改善を実感でき,援助者にとっては,いま自分たちがどのような援助過程にあるのかを確認できることが重要である。家族支援において援助者が知識や指示を与えるだけでは家族の行動変化は起こりにくく,行動変化に介入するためには,家族の変化への準備状態に合わせた援助が必要である。今回,筆者らはその指針を与えるモデルとして「ひきこもり家族支援のステージモデル」を試作したので報告させていただく。
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