巻頭言
末期心不全治療の行方
磯部 光章
1
1東京医科歯科大学大学院循環制御学
pp.333
発行日 2002年4月15日
Published Date 2002/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404902448
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治療法の進歩した現在においても心不全の予後は不良である.心不全の内科治療の進歩には著しいものがある.1990年代に到ってACE阻害剤あるいはARBとβ遮断剤を中心とした治療が普及してきた.臨床の現場で心不全治療にあたっている循環器内科医にとっても,確かに手応えの大きい治療法である.移植の申請に踏み切ろうと考えていた患者が数ヵ月の経過で社会復帰していく姿を経験することは稀でない.しかし,大規模臨床試験の結果をみてわかるように,治療によって救命できる患者数は2年の観察期間でほんの数%にすぎないことも事実である.
永らく課題であった我が国における心臓移植は,1997年の脳死移植法案の成立後4年を経てようやく10例を越して症例が増えてきている.とはいえ,この間心移植適応と判定された患者は200例を越す.移植の申請をためらっている患者も少なくないであろう.今後脳死ドナーの増加があっても必要とされる移植が遅滞なく行われるような状況が来るとは思えない.事情は欧米においても同様であり,ドナー不足のため心移植の件数は年々減少している.また,患者にとっても心移植の選択には大きな決断を要する.筆者自身も移植医療に携わっていながら,「健康であった人の死を待つ」という意味において釈然としない思いを捨てきれない.
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