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Evidence-Based Medicine(EBM)という言葉がはやるようになって久しい.確かに根拠(evi—dence)に基づく医療のほうが,根拠に基づかない医療よりも良いのはあたり前で,医療を受ける側としても根拠のない医療などとんでもないと思われるであろう.しかし,はっきりとしたevi—dence(論文)はなくとも,昔から医師はある程度の根拠(経験)に基づく医療を行ってきたことは当然である.問題はそのevidence(論文)の質である.様々なトライアルが行われるが,入間を扱う医学の世界には極端に多くの要素が介在しており,いかにランダム化比較試験を厳密にやろうとも,様々なバイアスがそのトライアルに加わってくることは避けることが難しい.厚生省も初めはEBMを「科学的根拠に基づく医療」と訳していたが,最近では「根拠に基づく医療」と「科学的」をはずしたという.もちろん,今後も,より質の高いevidenceを収集し,医療に役立てることは絶対に必要であろうが,何でもEBM,EBMとEBMをもち出さねば論外のように言われると困ってしまう.医学には,本来EBMとは異なった部分があり,それによって発展してきた部分もあるのでは……と思ってしまう.
例えば,我々の領域での,びまん性汎細気管支炎(DPB)に対するエリスロマイシン療法の発見などは,その最たるものではないだろうか.経験から副鼻腔気管支症候群の患者さんにエリスロマイシンを少量長期に投与しておくと喜ぼれるので続けていたという小さな流れを,鋭く見逃さずに発見されたこの治療法は,Experience-basedMedicineとでもいうものの典型ではなかろうか.このように以前から考えていたら,昨年のある学会の宴席で,順天堂大学の本間日臣名誉教授が同じ趣旨のお話をされた.DPBに対するエリスロマイシン療法も,初めのころは学会で「そういう科学的根拠のない治療をするのはおかしい」といった批判を浴び,効果を目のあたりに見てこの治療法のすばらしさを実感していた私は,大変不本意な思いをした記憶もある.昨今のEBMにこりかたまっていると,こういう発想は生まれてこないかもしれない.
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