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はじめに
犬の心臓の冠動脈内に直径60μmのマイクロスフェアー(MS)を注入していくと,次第に血流予備能が失われていく(反応性充血で表わされる:図1矢頭).MS注入をさらに続けていくと,安静時の血流量は注入以前(上段左端)と変わらないが,反応性充血を起こすことができない冠動脈疾患モデルを作ることができる(図1下段右側).このモデルでは,安静時においては酸素需要と供給のバランスがとれているが,体動などで心筋酸素需要の増大が生じると酸素不足が生じる.すなわち,わずかな労作で心筋虚血が誘発される実験モデルで,しかも微小血管に病変を有する.虚血作成後2ヵ月の時点でNADH蛍光写真(図2b)をとったところ,マイクロスフェアーを注入した左冠動脈前下行枝領域で心内膜側に全周性にNADH蛍光(=心筋虚血)を認めた.肉眼所見でも,心外膜下心筋の線維化は斑状で(図2a),心内膜下心筋の線維化ほど強くなかった(図2c).GriggsとNakamura1)が心筋の虚血は心内膜側に生じやすいということを初めて報告してから30年以上が経過した.現在では,心筋表面から心内膜側へむけて心筋を貫く心筋貫通枝を介した血流が,心筋の収縮によって阻害されることが心内膜心筋虚血発生の大きな要因であると考えられている.心筋貫通枝は100-500μmの血管径を有する.既存の冠血管造影法は空間解像度が200μm程度であり,心筋貫通枝やさらに末梢の血管の定量的評価は困難である.冠血管形成術(PTCA)やバイパス手術(CABG)は通常心筋表面の直径1mm以上の冠血管を治療対象としているが,末梢血管病変の有無がこれらの治療法の効果に少なからざる影響を及ぼすことは容易に想像できる.また,末梢血管に主な病変を有する病態に対しては心筋内冠血管形成術(TMR)や遺伝子治療などによる微小血管の新生を誘導する治療法の応用が期待されている.このように,循環器科の医師の関心は心筋表面の冠動脈病変から心筋内血管,さらに新生冠血管へと展開しつつある.
本稿では,放射光励起X線蛍光分析法による心筋内血管分布の特徴,放射光微小血管造影法が捉えた収縮に伴う特異な心筋内冠血流パターン,そして高速度シャッターシステムの使用による放射光微小血管造影法のさらなる改良について述べ,次世代の冠動脈硬化診断法のモデルを提案したい.
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