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人工呼吸管理をめぐる最近1年間の話題
人工呼吸管理は,呼吸不全症例に対して生命維持的に用いられる治療法であるが,近年,この人工呼吸管理自体により惹起される肺傷害(ventila—tor-induced lung injury:VILI)について注目が集まっている.VILIとしては,従来より圧損傷(barotrauma)がよく知られているが,それ以外にも容積損傷(volutrauma),無気肺損傷(atelec—trauma),生物学的損傷(biotrauma)といった病態が知られるようになってきており,呼吸管理の条件によってはそれのみで急性呼吸急迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)類似の肺傷害が生じると報告されている1).VILIを防ぐような呼吸管理戦略は肺保護戦略と呼ばれているが,多くの知見が,動物実験により得られたものであるため,これまでこのような呼吸管理法が実際の臨床に応用可能かどうかについて疑問がもたれてきた.本年度のトピックスとしては,肺保護戦略に関する種々の臨床研究の成果を挙げることができよう2〜4).これら臨床研究から,VILIが実際のARDS症例においても起こっており,さらに呼吸管理によりVILIを軽減させ得る点が明らかとなりつつある.特にNIH—NHLBIのtrialは,ARDSでの大規模研究で,初めて生存率に有意差を認めるという点でも極めて注目すべき報告である.
また,従来は人工呼吸器による呼吸管理といえば,気管内挿管などによる人工気道を用いる侵襲的陽圧人工呼吸のみを意味していたが,最近では,マスクを用いた非侵襲的陽圧人工呼吸(nonivasive positive-pressure ventilation:NPPV)も新たな呼吸管理手段として急速に普及しつつある(Respiratory Care 42:365,1997).高炭酸ガス血症を伴う急性呼吸不全に対するNPPVはその有効性から,ほぼ根拠のある治療として認識されているが,挿管患者の人工呼吸器からの早期離脱,挿管の回避による合併症の頻度低下に対する有効性や5〜8),低酸素性の急性呼吸不全症例への応用拡大9,10)に関する報告がなされている.Navaらは,COPD急性増悪における挿管からの離脱におけるNPPVの有効性を無作為比較試験により検討し,NPPVは従来法による離脱に比べ有意に離脱時間やICU滞在期間を短縮し,nosocomial pneumoniaの頻度を減少させ,60日での生存率を改善させると報告している5).また,NPPVは後述する人工呼吸器に関連した肺炎(ventilator associated pneumonia:VAP)の頻度を有意に減少させたとの報告もなされている7,8).Antonelliらは,低酸素性の急性呼吸不全症例におけるNPPVと従来型の人工呼吸管理をprospective randomized studyにて比較検討した結果,NPPVは従来型の人工呼吸管理と同等のガス交換の改善をもたらし,有意に合併症が少なく,ICU滞在期間が短かったと報告している9).このように,NPPVの応用範囲が種々の呼吸不全状態に広がりつつあり,ここ数年で呼吸管理は大きな変貌を遂げることとなった.
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