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はじめに
1994年12月,Jeffrey M Isner教授がボストンのセントエリザベスメディカルセンターにおいて,下肢血管閉塞症患者に対する血管内皮増殖因子vascular endothelial growth factor(VEGF)の遺伝子を用いた血管新生療法を開始した1)(図1,表1).これは,循環器領域における世界初の遺伝子治療で,すでに50以上の症例を重ねている.VEGFは,血管新生を強力に引き起こす血管内皮細胞特異的な分泌性増殖因子である.われわれは,この遺伝子をhydrogel balloonシステムで重症虚血の近位動脈部位に導入する手術を経皮経管的に施行している.さらに血管内アプローチが困難な患者が多いため,筋肉内遺伝子治療のプロトコールが進められている.治療を受けた患者の多くに画期的な臨床症状および診断学的改善を認めている.
1998年,同じく当施設で虚血性心疾患に対するVEGF遺伝子治療による血管新生療法が応用され始めた.現在,開胸時におけるVEGF心筋内遺伝子治療が20例以上を数え,その経過観察が続いてる.
また,VEGFはballoon injury後のre-endo—thelialization(血管内皮再生)を促進し,内膜肥厚を抑制する作用があることも判明し,同じく当施設で1995年11月より,動脈硬化症患者のan—gioplasty後restenosis(再狭窄)予防の遺伝子治療として臨床応用されている.
最近,他の施設でも血管遺伝子治療が開始された(表1).静脈バイパスグラフトの内膜肥厚抑制を目的としたE2Fデコイのオリゴヌクレオチド療法,虚血性心疾患に対するアデノウィルスを用いた異なるアイソタイプのVEGFの血管新生療法,冠動脈硬化症に対するリボゾームを用いたVEGFによる血管内皮再生療法などが報告されている.
これら臨床の遺伝子治療は,綿密な基礎動物実験に基づいて完成されたものである.本稿では,当施設において施行されている遺伝子治療のうち,血管新生療法に関する遺伝子治療について報告する.
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