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■最近の動向 ARDSは,当初からその呼吸管理において,著しい低酸素血症を是正するためPEEP(Positive End-expiratory Pressure)の使用が導入された.PEEPは機能的残気量(FRC)を増大させることにより肺胞の虚脱を防ぎ,肺内シャントを減らしてPaO2を上昇させる.PEEPの使用は必然的に肺に高圧をかけることになり,通常の1回換気量(TV)を得るためには,著しく高い吸気圧が必要となる.この間,ARDSの死亡率は,PEEPを中心とした呼吸管理の進歩にもかかわらず大きな改善が得られていない.その理由として,肺に高圧をかけて過伸展させることによる肺損傷の重要性が認識され,従来の高圧下の人工換気によるbarotrauma(圧損傷)が不可逆的な肺の変化をもたらし,むしろARDSの病態を悪化させ,最終的な救命を困難にしている可能性が考えられた.肺へのbarotraumaを避けるためには,肺にかける圧を低くする必要があるが,肺シャントを減少させるためにはPEEPを下げるわけにはいかない.必然的に,PEEPはある程度維持し,TVを小さくすることにより肺にかかる圧を小さくする呼吸管理法が考え出された.TVの低下は当然肺胞低換気を惹起しPaCO2の上昇を招く.しかし,肺に対する傷害に関しては,barotraumaよりむしろ高炭酸ガス血症のほうが影響が少ないと考えられ,Permissive Hypercapnia Ventilation(PHV)が現在のARDSの呼吸管理の主流となっている.しかし,この新しい呼吸管理法が,果たして本当にARDS患者の救命に寄与するか否かについての大規模研究はこれまで行われていなかった.本年のN Engl J Med誌に,カナダでの多施設合同研究の結果が報告されており,その有効性が否定されている.このtrialの中心となっているDr.Slutskyは,これまでPHVを積極的に推進してきた一人である.同じ号に,同様にPHVの有効性に疑問を投げかける研究が掲載されているので,併せて紹介したい.いずれにしても,ARDS治療の難しさを痛感させられる報告である.
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