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■最近の動向 冠循環系は一心拍毎に収縮と弛緩を繰り返す心筋内を貫通するという特殊な力学的環境に置かれているとともに,心臓の仕事量は全身の活動量の変動に対応して数倍に増大するので,冠血流量も強力な調節能を有する特徴がある.また,冠動脈は動脈硬化病変の好発部位であり,臨床的には虚血性心疾患の病態解明が重要な課題となっている.このような背景のもとに,冠循環の生理学として,1)心筋収縮と冠血流,2)血流調節機構,3)心筋虚血の病態,の研究が盛んである.このうち,3)は省略すると,1)については確実な進歩がみられる一方,2)の発展が目まぐるしい.
冠血流の調節因子としては,Berneの提唱したアデノシン仮説が有名である.アデノシンが冠血流調節の重要な因子であることは十分に確立されているが,プロスタグランディン,一酸化窒素(NO),ATP-sensitive K channel,内皮由来過分極因子(EDHF)などの多くの血流調節因子の発見により,いかなる条件においてどの因子が大きな役割を果たしているかが研究されつつある.そのための方法として,プロッカーとagonistを組み合わせる方法が使われているが,最近はknockoutmouseの登場が一つのトピックスとなっている.これらの研究により,冠血流の調節は単一の因子によるものではなく,例えばNO,アデノシン,EDHFが相補的に調節するような機構が考えられている.いままでは,個々の因子の解明が優先されてきたが,今後はわれわれがPhysiomeと呼んでいるシステム全体としての調節機構の考察がますます重要になるものと考えられる.なお,PhysiomeはPhysio—=life,—ome=as a whole entityからの造語である.
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