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■最近の動向 冠血流調節は代謝性,神経性,体液性因子にて調節されるが,冠血管自体の特性も重要である.その特性を規定する大きな因子としてKATPチャネルの存在が注目されている.KATPチャネルは,血管平滑筋では,生理的な条件下で活性をもち,血管平滑筋細胞の静止膜電位を決定する.通常は細胞内ATP低下が原値の1/10以下になると開口するが,Kチャネル開口薬のニコランジルやピナシジルは細胞ATP濃度に無関係にKATPチャネルを開くことにより血管を弛緩させる.ところが実際の生体では細胞内ATPの低下は虚血が生じたとしてもKATP開口を生じるほどの低下は生じず,むしろ種々の生理活性物質および細胞内情報伝達物質によりKATPチャネルの開口は制御されることがわかってきた.たとえばcyclic AMPはこのチャネルを活性化し,エンドセリン,バソプレッシンはこのチャネルを抑制する.H+Ca2+もKATPチャネル開口の閾値を下げる作用がある.また逆に,KATPチャネルが開口すれば,単に血管平滑筋細胞が過分極し,Ca流入の抑制・筋弛緩が生じるだけでなく,KATPチャネル開口を介して,ATP・NO・アデノシンなどの産生を増加させることにより,血管トーヌスを調節するのである.すなわち,生体で各種血管作動物質を介して開口するKATPチャネルは,種々の神経・体液因子を介するメカニズムにより血管のトーヌスの調節に関与していると考えられる.
最近,冠血管や脳血管,末梢血管におけるKATPチャネルの生理的役割や,その血管弛緩のメカニズムについての研究が飛躍的に進んでいる.さらに,これらの血管の動脈硬化病変におけるKATPチャネルの役割についても注目を集めている.KATPチャネルを中心とした循環器病学も,新しい時代をむかえつつある.
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