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はじめに
R.Rossの内膜傷害反応説の提唱以来,動脈硬化症・血管形成術後の再狭窄の発症・進展のメカニズムとして血管壁での慢性炎症性増殖性病変という概念が現在広く認知されている.近年,細胞培養技術の向上と動物モデルの開発,分子生物学の手法の広まりが相まって,病態の研究が急速に進み,病変の進行過程とそれぞれの場に登場する分子の同定が行われ,炎症性サイトカインや細胞増殖因子の関与が示されてきた.一連の反応の最終段階では本来中膜に分布する平滑筋細胞の内膜への遊走と増殖,同細胞による細胞外マトリックスの産生,線維化(狭窄病変の形成),そして肥厚内膜内での血管新生—破綻が病態の基本を成すことがどうやらコンセンサスとして定着しつつある1).そのため細胞増殖因子が注目されるところである.とくにPTCA後再狭窄では,比較的短い時間内に,平滑筋細胞の新生内膜での増殖がかなり純粋な形で生じており,平滑筋細胞増殖因子はより直接的に関与していると予想される.これまで培養細胞を用いて各種因子間の連鎖や相乗作用が報告され互いに複雑なネットワークを形成しているらしいことがわかってきた.しかし,これらの観察結果はそのままin vivoの実態に適用できるのであろうか?生体内で増殖因子が果たしてどのような作用を担っているのか実のところほとんど不明である.さらにすべての増殖因子が病変形成に均等に寄与しているのか?あるいは特に重要な因子が存在するのか?これら増殖因子間に不可欠の連鎖関係が存在するのか?といった疑問はもちろん未解決である.in vivoでのメカニズムの解明はより効率のよい治療法の開発にも重要である.ごく最近,ウイルス由来ベクターなどを利用して血管壁への高効率遺伝子導入が可能となり,新たなアプローチによる分子レベルでの病態の解析やさらに治療への展望も開けてきた.
本稿では,まず狭窄病変形成における細胞増殖因子の関与を示唆するこれまでの実験結果を簡単にまとめ,in vivoでの増殖因子の動的役割を解明するための方法論について現在筆者の研究室で取り組んでいる方法も含めて紹介させていただくこととする.
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