巻頭言
動脈硬化研究について思うこと
藤浪 隆夫
1
1名古屋市立大学医学部第3内科
pp.733
発行日 1992年8月15日
Published Date 1992/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404900515
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動脈硬化の研究にはじめて参加したのは,大学院生として岡本耕造教授のご指導によりウサギにラノリンを投与して高コレステロール血症をつくり,その動物を交配して自然発症の動脈硬化のモデルを作成することであった.残念ながら継代飼育によっても動脈硬化の発症にまで至らぬまま挫折してしまった.しかし,この考え方は自然発症高血圧ラット(SHR)やLDL受容体欠損症モデルとして開発されたWatanabe高脂血症ウサギ(WHHL)に生きている.優れた実験モデルをもつことは研究の飛躍的な進歩につながるが,ヒトのコレステロール・レベルで動脈硬化を発症する適切なモデルは残念ながら現われていない.
近年の動脈硬化の研究の進歩は当時と格段の差がある.大きな進歩の引き金となったのはBrowmとGoldsteinによるinjury response hypothesisであろう.内皮細胞の傷害をめぐって,多くの内皮細胞の機能が明らかにされ,マクロファージと変性LDLの形成,血小板の血管壁粘着とそれにつづく増殖因子の分泌,中膜平滑筋細胞の増殖など動脈硬化の成因に関与する多くの機序が明らかにされた.しかし,内皮細胞そのものの傷害を起こす内的な機序に関する知見はまだ乏しいと思われる.また,LDL受容体の発見以来,リポ蛋白代謝が明らかにされ,アポ蛋白の機能や異常が種々報告され,最近ではLp(a)が動脈硬化の独立した因子として意義があるのではないかとされている.
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