Japanese
English
解説
脳虚血と神経細胞死
Ischemia and Neuronal Cell Death
桐野 高明
1
Takaaki Kirino
1
1帝京大学医学部脳神経外科
1Teikyo University School of Medicine Department of Neurosurgery
pp.323-331
発行日 1992年4月15日
Published Date 1992/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404900452
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はじめに
脳に血液が正常に灌流しない状態,たとえば心停止や脳血管閉塞では,神経細胞が正常の機能を営んでいくために必要な酸素やグルコースの供給が断たれる.血中の酸素濃度が非常に低下した低酸素症では血流が存在しグルコースが供給される点では異なるが,脳のエネルギー代謝が障害される点では類似した状態であると言える.脳が虚血や低酸素状態に対して脆弱であることは昔からよく知られていたが,その詳細なメカニズムが分析的に追及され始めたのは比較的最近のことである.
脳が虚血や低酸素の状態に陥ると,脳組織の損傷が発生し,神経脱落症状が起きる.その大きな理由は神経細胞が細胞死に陥るからである.もし脳が短時間虚血に陥ると脳の全般的な構造は破壊されずに,神経細胞のみが脱落する病変が発生する.虚血時間が更に短くて虚血の程度が軽い場合には,神経細胞の中でも特別に虚血に対して脆弱な神経細胞のみが死滅し,特有の神経細胞脱落のパターンが発生する.脆弱な神経細胞としては海馬のCA1錐体細胞と小脳のプルキンエ細胞が代表的な存在である.この他に基底核(尾状核,被殼)の中〜小型細胞や大脳皮質3,5,6層の錐体細胞も脆弱であることが知られている1).このように選択的に脆弱な神経細胞が存在することは,虚血による神経細胞死のメカニズムを探る上で,次の二つの意味において重要である.
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