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最近の治療医学の発展には目覚ましいものがある.循環器病学領域においても,私が医学部を卒業した21年前にはおよそ実現可能とは思われなかった,あるいは想像すらできなかった治療法が日常臨床の場で実践されている.例えば急性心筋梗塞に対する再灌流療法の確立と急性期ステント植込み,心原性ショックや低左心機能例に対する補助循環下の血行再建術(supported PTCA),予後改善を目的としたACE阻害剤による心不全の治療,頻拍症の非外科的根治療法としての高周波カテーテルアブレーション,重症心室性不整脈に対するI群抗不整脈薬療法の見直しとアミオダロン療法および植込み型除細動器の展開,動脈グラフトを用いた完全冠血行再建術,人工心肺を使用しない最小侵襲的冠血行再建術(mini-CABG)等々,枚挙にいとまがない程である.これらの日進月歩の発展に追随するばかりでなく,一つの分野ででもリードすべく努めることが我々の使命の一つである.
ところで医学部臨床講座の責務として,教育,診療,研究が挙げられて久しい.教育への情熱と適性には個人差があるため,臨床医学を志す教官の教育内容を一律に点検評価することは困難である.多くの教科書的書物が満ち溢れる現在大切なことは,各教官が研究,診療への情熱をアピールすることであり,これにより学生は自ずと学ぶべきことを学ぶはずである.これが大学における教育の本来の姿でもある.我々にとって最も重要なことは研究の実績と診療技術のバランスを如何に保つかである.すなわち最新の治療医学を取り入れ(または開発し),地域医療において指導的役割を果たし,一方で研究者としての実績を積み医学の発展に寄与していくことが重要な課題である.米国では一つの大学の循環器病学講座において各専門分野別に担当教授が采配を振るい,その指揮下に数名のスタッフとレジデントが実働している.このシステムにより循環器病学のあらゆる分野がカバーされ,最新かつ実験的治療医学の実践が多くの地域で可能となっている.これに対し我が国においては,とくにナンバー内科と呼ばれる臨床講座は,限られた教官数で少なくとも2つ以上の臓器部門を担当している.つまり構造的問題として,一つの内科学講座において循環器病学のすべての分野の最新の治療医学を実践し,そして同時にオリジナリティーの高い研究業績を発表していくことは必ずしも容易ではないのである.これに対応する戦略として,相当の頭脳集団とマンパワーを擁するか,またはいわゆる関連病院との連携を模索することが考えられる.前者では自ずと大学間,地域間較差を生じることは否めず,したがって地方大学においてこそ人事の交流の活性化,流動化が求められる.後者では,いわゆる臨床教授制度の構想とも大きく関係し,学生臨床実習,研修医教育を含めた制度の確立と同時に,内部/外部評価等による病院,スタッフの質の向上と維持を図らなければならない.
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