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閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome;OSAS)は睡眠中のいびきと無呼吸,日中の過度の眠気(excessive daytime sleepiness;EDS)を代表的な主訴とする疾患として周知されている.本症候群は,高血圧や心血管疾患,糖尿病リスクを上昇させることも明らかにされており,これらに対する予防医学的側面からも治療の必要性が重要視されている.加えて,OSASのEDSがもたらす運輸交通などの安全性,作業能力の効率性への悪影響という社会的側面も注目を集めており,このような流れのなかで,近年OSASスクリーニングが企業健診などで取り入れられるようになってきている.
睡眠時無呼吸症候群では終夜ポリソムノグラフィ(polysomnography;PSG)上の無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index;AHI)(睡眠1時間当たりの無呼吸+低呼吸の回数)5回以上〜15回未満/時が軽症,15回以上〜30回未満/時が中等症,30回以上/時が重症と分類される1).OSASによって生じる眠気は,呼吸イベント終結時の覚醒反応がもたらす睡眠の浅化・分断ないし,呼吸イベントに伴う間歇的低酸素血症に起因すると考えられている.このため,呼吸障害重症度が高いほうが眠気水準も高いといった印象が持たれる傾向にあるが,実際にはAHIで分類されるOSASの重症度と日中眠気水準は明瞭な相関関係を示すわけではない.また,眠気の自覚・他覚的指標はいくつか存在するが,これらの相互関係ならびに呼吸障害指標との関係は明瞭ではない.例えば,OSASの重症度と自覚的眠気のスケールであるエプワース眠気尺度(Epworth sleepiness scale;ESS)2)は一致しない3).また脳波を用いる睡眠潜時反復検査(multiple sleep latency test;MSLT)4)は外界からの覚醒因子を取り除いた環境で被験者に眠るように促し,その平均睡眠潜時を眠気の高まりやすさの指標とするものであり,重症OSAS患者全体では短縮傾向を示すが(短いほど易入眠傾向が強い),その値は自覚的スケールであるESSと乖離する5).覚醒維持検査(maintenance of wakefulness test;MWT)4,6)は,MSLTと同様の環境下で被検者に入眠しないように伝え,規定された検査時間内に脳波上の入眠せずにいられた時間を平均睡眠潜時とし,覚醒を維持する能力の指標とする検査であり,これについても重症OSAS患者では入眠潜時は短縮している(短いほど覚醒維持能力が低い)7).しかしこのMWTの平均入眠潜時とMSLTでの平均睡眠潜時の動向とは一致しない8).このように,自覚的眠気,易入眠傾向,覚醒維持機能は,同一の傾向を示すことは少ないので,用途・目的に応じて検査を使い分ける必要がある.実際に,ESSは質問紙を用いて簡便に行えるため,健康診断や外来診察での自覚的眠気の有無の確認に頻用される.眠気の診断と重症度判定には,MSLTが用いられる.自動車運転などの危険な機械操作の可否を検討する際や,眠気を伴う疾患での治療効果の評価には,MWTを用いるのが一般的である8).MWTは40分法が推奨され6,8),健常者の睡眠潜時は40分法で30.4±11.2分と報告されている4).近年MWTと運転パフォーマンスに関する研究が集積されてきており,MWTの平均入眠潜時が19分未満の場合には車体の側方向への動揺度が高いという報告9,10)や,一方で平均入眠潜時が34分以上では運転パフォーマンスに問題がなかったとの報告9)がある.しかしながら実際の眠気は患者の生活習慣や作業継続時間の影響を受けるため,MWTのみで絶対的な判断を行うことは危険であり,MWTは患者の全体像を把握するうえでの有効な補助資料として活用すべきであろう.
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