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はじめに
左室心筋を灌流する冠動脈の血流は他の諸臓器とは異なり,収縮期には強い心筋内圧にさえぎられ,そのほとんどは心筋が弛緩する拡張期に流れる拡張期優位の特有な拍動特性を有し1),この現象は左冠動脈で強く,中枢部より未梢冠動脈で著しい2)。特に左室心内膜側心筋は主に拡張期血流によって灌流され3),したがって冠動脈の循環動態の解明には血流量計測とともに局所的な冠血流の拍動特性,すなわち血流波形(phasic flow wave—form)を計測,心周期との関連性について解析することの意義はきわめて大きい。冠動脈血流のphasic flowの計測には電磁血流計や超音波血流計が用いられ,電磁血流計からは流量と血管内の平均流速波形が求められるが,血管の剥離を必要とし,中枢部の冠動脈に限られる。これに対して超音波パルスドプラ血流計は血流速度の計測を目的とし,本法の最大の特徴は血管の剥離を必要とせず,心臓の表面を走行する冠動脈に平行に一定の角度で超音波プローベを固定することにより比較的末梢の冠動脈まで計測が可能である。冠動脈のような太さが2〜3mm以下の細い血管の血流の計測には高い分解能を有する高周波数を持つ装置が必要とされる。Hartley,Cole4)は小血管の血流計測を目的としてカテーテル型の20MHz高周波数パルスドプラ血流計を開発し,Ma—rcusら5)は20MHzの超音波パルスドプラ血流計を用いて手術中にヒト冠動脈のphasic flow velocityをはじめて計測したが,彼らの装置は流速波形をゼロクロス法だけで表示し,しかもチャンネル数が少ないためサンプルボリュームが大きく,正しい血流波形であることの確認が困難であった。
著者らは20MHz80チャンネルの高周波数多チャンネルパルスドプラ超音波血流計6〜7)を用いて手術中にヒト冠動脈血流の計測を行い,種々の新しい知見を得ているので装置の概要と計測の方法,正常および各種心疾患の冠動脈血流の拍動特性について症例を提示し,報告する。
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