Japanese
English
解説
硝酸薬の耐性
Nitrate tolerance
木之下 正彦
1
Masahiko Kinoshita
1
1滋賀医科大学第一内科
1The First Department of Internal Medicine Shiga University of Medical Science
pp.615-623
発行日 1988年6月15日
Published Date 1988/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404205270
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はじめに
硝酸薬の耐性はすでに1888年にStewartにより報告され1),1898年には火薬工場の労働者にみられるニトログリセリンに対する慣れの現象として報告されている2)。その後1914年にEbrightは彼の著書の中でニトログリセリンに対する耐性を免疫という言薬で表現している3)。すなわち誰でも3ないし4日間火薬工場で仕事を続けると免疫ができるが,より大量のニトログリセリンに晒されると頭痛が生じる。しかしこの免疫は容易に消失し,2ないし3日の休暇の後には失われ,仕事に復すると再び頭痛をきたす。したがって,ニトログリセリン工場の労働者は免疫を維持するためにニトログリセリンを浸ませたhatband帽子のりぼんをつけていたと述べている。さらに工場労働者に限らず硝酸イソソルビッドの製造に携わっていた化学者の間にも月曜日の頭痛"Monday head"という職業病があったことが記載されている4)。これらの慣れ,免疫,Monday headというのが硝酸薬に対する耐性と関連していることは一目瞭然であろう。しかし,逆にニトログリセリンの禁断現象withdrawal phenomenaもみられる5)。これはダイナマイト工場の労働者の中に週末に狭心症,心筋硬塞をきたし急死する例がみられたが,このような極端な禁断現象は臨床的にはみられない。
この解説では硝酸薬耐性nitrate toleranceとは,ある一定の血行動態作用もしくは抗狭心作用をきたすのに必要な硝酸薬の量が増加している状態と定義した。
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