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はじめに
冠循環の恒常性を維持する上で側副血行路collateralcirculationがどの程度機能しうるかという問題は,虚血性心疾患の病態生理を考える際きわめて重要である。臨床的に冠循環系における側副血行路の存在が認識されて以来およそ半世紀が経過するにもかかわらず,現在でも冠循環における側副血行路の形態,機能に関する臨床および基礎研究論文が毎年枚挙にいとまがないほど掲載されることからもこの問題への関心の高さ,重要性がうかがわれる1)。
冠血管に動脈硬化性狭窄が徐々に進行すると健常血管より側副血行路が発達することが知られ,たとえ主幹冠動脈が完全閉塞に陥ってもかかる側副血行路の救済により,臨床的には心筋梗塞の発症を免れうる症例が存在することが提示されてきた2)。すなわち,強い器質的狭窄存在下に発達する側副血行路の意義についてはかなり理解が進みつつある。しかし,このような病型とは異なり,血管スパズムや血栓形成などの機能的要因が関与する病型において冠血行が急速に途絶した際,果たして側副血行路が存在しうるか,またその機能的意義についてはいまだ不明の点が多く残されていた。著者らは1980年,非発作時には正常冠動脈像を呈する狭心症例において,血管スパズムによる主幹冠動脈の完全閉塞に際してのみ建常血管より一過性に側副血行路が出現し,ニトログリセリンによるスパズム寛解時には側副血行路も消失するという現象を見いだした3)。以後,この現象について検索を進め,かかる側副血行路が機能的にも重要な役割を果たすとの示唆を得てきた4,5)。本稿では従来知られている"古典的"側副血行路の機能的役割とともに,狭心症,心筋梗塞における血管スパズムや血栓形成に伴う側副血行路の発達とその臨床的意義について解説してみたい。
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