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急性心筋梗塞の初期に出現する心室性不整脈の発生機序の本態は十分明らかでない1)。冠動脈の血行途絶により心筋は好気的代謝から嫌気的代謝に移行するので,解糖による乳酸産生が亢進し,組織のH+濃度が増加する2)。また,細胞膜の選択的透過性が失われ,細胞内に高濃度に存在するK+が流出し,かつ交感神経緊張により組織のcatecholamine濃度が上昇することも知られている2〜4)。間質におけるK+,H+濃度の増加に加えて,catecholamine濃度の増大は,Ca2+-induced slow res—ponseが発生する好条件となる5)。slow channelによる活動電位(slow response)は伝導速度が遅く,かつ一方向性伝導途絶をきたしやすく,急性心筋梗塞におけるreentry型不整脈発生の要因として重要である。しかしreentryはslow channel依存性のslow conductionに限らず,Na+の通路であるfast channelが,静止電位の減少によって大部分不活性化をうけ,活動電位の最大立ち上り速度(Vmax)が著明に減少しても生じ得る。reentryがslow channelによるのか,fast channelによるのかは,心筋細胞膜の静止電位レベルによって決まると考えられる。したがって,静止電位にもっとも重大な影響を与える間質のK+濃度が,急性心筋虚血で一体どの程度まで上昇し得るのかが問題となる。動物の冠動脈を突然閉塞した時の虚血部の間質K+濃度の変化は,近年valinomycin人工膜を使用したK+感受性電極により,直接測定が可能となった3,6)。即ち梗塞中心部の間質K+濃度は冠動脈閉塞により急速に上昇し,8分以内に14〜17mMにも達することが明らかとなった。
このような実験的急性心筋梗塞で報告されているほぼ最高の間質K+濃度(14〜17mM)を有する高K+—Ty—rode液にて摘出モルモット心室乳頭筋を灌流すると,細胞内活動電位の立ち上り相は抑制され二相性となり,その最大立ち上り速度(Vmax)は前方成分(32V/s)と後方成分(10V/s)に分離して記録される(split Vmax)7,8)。この前方成分(Vmax,fast)は半ば不活性化されたfast channel(residual fast channel)の活動を示し,後方成分(Vmax,slow)はslow channelの活動を示すことが判明している7,8)。この時catecholamineであるisoproterenolはVmax,fastを抑制し,同時にVmax,slowを増加させる。つまりisoproterenolはNa+channelを抑制し,Ca2+channelを促進することによって,reentryの原因となろているslow conduction(30〜35cm/s)を担うion channelをfast(Na+)chan—nelからslow(Ca2+)channelに容易に変化させる7,8)。
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