巻頭言
心臓に関する用語について
岡田 了三
1
1順天堂大学医学部内科・心臓血管病理学研究室
pp.1179
発行日 1985年10月15日
Published Date 1985/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404204750
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心臓は心とも略称されるが,ココロとの混同をさけるためには,心疾患,肥大心など形容詞的または接尾語的に使う場合を除き,成可く臓をつけた方がよいと思う。心臓名部の名称については,原則としては日本解剖学会選定の解剖学用語(丸善,東京,1950,第2版)に従うべきであろう。その用語は1895年Baselで開かれたドイツ解剖学会選定になるB.N.A.を,1935年Jenaでの総会で改訂したI.N.A.のものの訳語として1943年に決定をみた後,再改訂なしに現在に至っている。このI.N.A.はヒットラーのナチズムの悪印象が重なって英米系学者の用いるところとならず,英語圏では独自にB.N.A.を一部手直しされたものが使用されてきた。本邦では第二次世界大戦以後,滔々として英語圏の医学が流れ込んで,戦前のドイツ語系の医学用語が駆逐される傾向が著明であった。そのためI.N.A.とB.N.A.の2系統が入り混って心臓に関する用語にも混乱を生じ,今日でも猶スッキリしない部分が残っている。
とくに右・左,前・後,上・下の方向がB.N.A.では取り出した心臓で右心室・左心室の洞部(流入路)が右・左に位置し,両心耳が正面からみて水平一線上になり,心尖が下に向くように釣り下げた位置を基本として決定されるのに対し,I.N.A.では生体内の実際の位置,すなわち右心室が前右下で左心室が後左上となり,心尖が前左に向く位置から腹側,背側,頭側,尾側を決定する相違が存在するので,2系統のどちらかを適宜使うというわけにいかない不便さが生れる。
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