巻頭言
循環器病を測る
古川 俊之
1
1東京大学医学部医用電子研究施設
pp.375
発行日 1977年5月15日
Published Date 1977/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404203042
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循環器疾患の病態を定量的に認識することは医学の重点目標の一つであり,そのために無数の努力が積み重ねられて来た。ところが研究の水準がたかまるのと反対に,医学研究の方法論にひそんでいたある種の矛盾が露呈して来たように思われる。
心臓・循環系のはたらきをポンプにたとえることは,当然のことながら素晴らしいアナロジィである。このアナロジィは臨床計測がもつ限界にも示唆を与えることができる。たとえば心筋活動に伴う電気的興奮は,マクロ的にみるとポンプの原動式の電気系統の機能に対応する性質があるので,心電図が診療上限られた情報しか提供できない理由の一部が理解される。この論法をあえて拡張すると,研究者の攻略目標の限界をそれぞれ描き出すことになる。X線,RI,超音波などを利用した形態計測は,かたちの意味に縛られる。心筋代謝研究は原動機のエネルギー転換機構を分析することに相当するから,生物学的には重要な発見が生れた領域であるが,臨床医学的には心筋の異常をエネルギー代謝の面からとらえることはむずかしい。血行動態は心臓と全身の循環系を不可分のシステムとしてポンプ機能を定量的に測ろうとする考え方に新しさがあるが,ここでも生体における流体現象の理論が進歩した割には,臨床的な行動決定が変ったようには見えない。
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