連載 診療所日誌・5
血圧,測りましょうか
小笠原 望
1
1大野内科
pp.412-413
発行日 2005年5月1日
Published Date 2005/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100144
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患者さんは,よく見ている
「先生,面白い話を教えてあげましょうか」
「うん,どういうこと?」
「先生が血圧を測りましょうと言うときは,今日の話はおしまいという意味だと竹村さんが言ってましたよ」
ふらふらすると言っては,診療所にしばしば顔を見せる浜口さんが,ぼくに嫌味なく言った。血圧を測りながら,「そうなんだ」と,ぼくも納得。患者さんとしばらく雑談したあとに,「そうしたら血圧を測ってみましょうか」と,ぼくはよく言う。長い話に相槌を打ちながら血圧計に手をかけて,マンシェットを患者さんの手に巻こうとしている時がある。診察の一区切りという気持ちと,患者さんのからだに触らないで診察を終えるのは申し訳ない気持ちとが半分ずつだろうか。
患者さんに,ぼくの診療の癖を見事に指摘されると,苦笑いするしかない。診察室で長い話が終わらないときがある。同じ話が繰り返されるうちに,順番待ちのカルテが診察机にだんだんと並んでくる。そんな時に,「今日はここまでにしませんか」の気持ちを込めて,「血圧を測りましょう」の言葉が出る。患者さんは本当によく見ている。「きのうは遅かったのでしょう,髪の毛がたってるもの。体は大切にせんといかん。先生が頼りだから」と,母のような一言を残して診察室を出てゆくお年寄りもときどきいる。
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