巻頭言
虚血心と左心機能
香取 瞭
1
1近畿大学医学部内科
pp.723
発行日 1974年10月15日
Published Date 1974/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202670
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心筋虚血の結果として,狭心痛,心電図変化,虚血心筋での乳酸産生などと共に,左心機能の異常が惹起されることは現在広く知られていることである。しかし,この左心機能異常をヒトで実際に観察したのは比較的最近のことのようである。すなわち,1958年Muller & Rorvik (Brit. Heart J. 20: 302, 1958)は右心カテーテル施行中に起った狭心発作で肺動脈模入圧が著明に上昇し,発作寛解と共に元に復したことをはじめて報告している。肺動脈圧の上昇は狭心発作による左室拡張終期圧(LVEDP)の上昇によるが,このLVEDP上昇のメカニズムに関しては,現在でもまだ論議の多いところである。
虚血性心臓病の患者で運動負荷を行った時の左心機能をみると,狭心痛を起す者ではそうでない者とくらべて,明らかにLVEDPの上昇が著るしく,しばしば心拍出量,心仕事量の低下をともなう。したがって心室機能曲線は右下方に偏移し,心筋収縮能の低下が起ったと評価されうる。右房ペーシングでもLVEDPの上昇が狭心痛出現とともに起り(ペーシング中止直後に著明),乳酸産生,心筋カリウム流出などが平行して生ずる。このように心筋虚血時の心機能の変化としてLVEDPの上昇が最も特徴的で,注目される。そのメカニズムとして,(1)心筋収縮力低下による一過性左心不全,(2)左室拡張期における圧—容量特性,すなわちcomplianceの低下があげられている。
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