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はじめに
cystic fibrosisとはどのような疾患であるのか,その概念を明確に答えられる学生は少ないと思う。著者も1961年にこの疾患の研究を目的として米国に留学するまでは,cystic fibrosisについての知識もなく,興味もなかった。もちろんこの疾患について講義をきいたこともなく,学会で話題となることもなかった。またわが国の成書や雑誌からこの疾患に関する項目や論文を見出すことは至難で,発見できても概念を把握するには不充分な,いわば幻の疾患という印象をうけた。
1961年といえばわが国で小児外科懇談会が発足して,おくればせながら,わが国でも小児外科への関心が高まった年である。小児外科に関する欧米の文献をみる機会が多くなるにつれて,新生児イレウスに占める meco—nium ileusの頻度は高く,新生児外科ではきわめて重要な疾患であることが容易に推察された。しかしmeco—nium ileusとは病態生理学的にどのような疾患であるのか,明快に答えられるわが国の研究者はほとんどなかった。
実はこのmeconium ileusがcystic fibrosis と同じ疾患であり,新生児期に現われる重症型にすぎないことが,1938年に発表されたAndersenの詳細な論文1)で強調されている。しかし欧米でもLandsteinerがmeconium ileusに注目して論文を発表2)してから33年間は両者の関係が不明であり,cystic fibrosisはceliac diseaseの中にうもれていた。
Andersenがcystic fibrosisを独立疾患として認め,各国の注目をひいた頃,わが国にはcystic fibrosisは存在しないという迷信が強かったので,わが国の医学界では注目されず,学会で討論されることもなかったし,研究発表もないに等しかった。
一方,小児外科領域では雑多な胎便排泄異常を伴う疾患3)があり,手術の適応があるかどうかの決定を迫られる症例が多い。この場合にmeconium ileusを無視できないし,また少なくともmeconium ileusと鑑別を要する場合が比較的多い。
他方ではmeconium ileusそのものの認識を深めるための研究,ことに臨床的な面での体験は,わが国では至難であることは今日でもかわりがない。理由はcystic fibrosisはわが国にも確実に存在するが,頻度は低いからである。著者が留学した意義はこの点にあったと思う。私はcystic fibrosisの臨床と概念を知って頂くために米国で得た臨床面の詳細を恩師であるSnyder教授と共著で米国から投稿し,「医学のあゆみ」4)に連載した。この論文は当時別刷請求が殺到したので,かなり注目され,またcystic fibrosisとは何かの概念を正しくわが国で理解して頂くのにいくらかでも役立ったものと確信している。cystic fibrosisとは何かを知るためにこの論文4)を是非参照されることをおすすめする。
帰国した翌年の1954年6月には日本小児外科学会が発足した。この時著者はcystic fibrosisに関する教育講演の機会を与えられたが,以来毎年わが国で得た研究成果をこの学会で発表しつづけている。研究の結果わかったことは,cystic fibrosisはわが国にも確実に存在するということであり,また頻度はやはり欧米のそれとは格段に低いということであった。このため,わが国におけるcystic fibrosisの研究は,この方面に関心をもたれる方々や,貴重な症例を経験された方々の温かい御協力を頂いてできたものであり,ここに引用する症例も関小児病院関 保平博士と名城病院小児科部長加藤 宏博士の御厚意によるものであり,わが国の典型的な症例を「Bedside Teaching」に供しえたことを深謝したい。
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