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はじめに
心尖拍動図(apex cardiogram; ACG)は,今から100年以上前に始められた古いグラフ診断法である(Chauveau, A. et Marey, E. J.1862年,Marey,E.J.1863年)。この方法はその後ヨーロッパでは比較的よく検討され,O. Frank (1908), W. Weitz (1917),A. Weber (1920), E Schutz (1933)などの著名な研究家はみなこの方法に多大の関心を示していた。WienのW. Dressler (1933)は胸壁の視・触診の客観化の一助としてこの方法を用い,後に米国に渡ってさらに広範な臨床的研究を行なった。有名な生理学者C.J. Wig—gers (1923)も本法に関心をもち,数々の成績を残したが,他の多数の研究者のそれと同様,いずれも臨床的に広く用いられるまでにはいたらなかった1)。その理由はP.D. White (1951)の言を借りれば次の如くである。
「胸壁に伝達されてきた心臓自体の拍動を記録したものは,一見したところ,当然心拍動のメカニズムを解析する上に,簡単で信頼しうるものであるはずだ,と思われるのであるが,経験をつむとそうでもないことが分ってくる。その結果,心拍動図(cardiogram)は特殊な場合とか研究のため以外にはあまり使用されないということになる。……胸壁が厚いとか,肺気腫とか,あるいは心活動が非常に弱いなどの場合は,心拍動を見出すことが難しく,全く不可能なこともある。」
このような事情にも拘らず,近年は各国を通じてACGの大変なrevival boomをみるようになってきている。その理由は大別すると次のような点にあると思われる。
1)触診法の重要性が認識され(打診法は衰微してほとんど行なわれなくなった),その客観化の一法としてグラフ表示が求められたこと(Dressler11), Harrison2)3),Luisadaなど)4)11)15),
2)方法論,ことに機械的方面における装置の簡便化,
3)心音図法の発達とともにその参考曲線(reference lead)としての有用性が再確認されたこと5)8)9)(古くから知られていたことである),
4)従来ほとんど全く推定の域を脱しなかった心内現象との相関が次第に明らかになりつつあること,つまりACGに生理学的基盤が与えられつつあること(Ben—chimol他多数)5)8),
5)心収縮力,心筋収縮不全の表示として用いうる可能性があること(Harrison40)など),
6)心周期相の解析に用いうる可能性が大であること,つまり心内現象との間に時間的なズレがない(ほとんど認められない)こと8),
7)心電図,胸部レ線などに比し,心筋疾患,心肥大などの早期発見に遙かに優れた診断的能力を有すること(Eddleman2), Dimond5), Mounsey6)7)他),などである。
筆者らは昭和35年(1960)来,T.R. Harrisonのすすめに従い,またこの方法の将来性を予見して,体系的な臨床検討を約4,000例について行なってきた。もちろん限られた紙数内ではそのすべての経験を述べることはできないから,ACGの最も実用的な面についてのみ,要約的に述べてみることにしたい。
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