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緒言
気道における粘液性分泌物の病態生理学的意義は,きわあて大きい。生理的にも1日約100mlが,気管および気管支に分泌されるといわれており1),外来侵入物に対する防禦,吸入気に対する加温,加湿,その他種々の機能を呈して,その生体に寄与するところは,消化器系における胃液の存在にも匹敵しよう2)。
一方,慢性気管支炎などでは,その過剰分泌3)がその排除機構の障害とあいまって,分泌物の気道内貯溜を生じ,それが基本病像を形成する因子となっている。また質的変化も生じ,Atassiら4)は,慢性気管支炎患者の粘稠な疾には,neuraminic acidが多いと述べている。
胸部臨床家として,痰に対して物理化学的観点からの検討を広げてゆくことは,むしろ当然のことと思われるが,実際の場に立つと安易になしうる問題ではない。その主要な理由として,痰の組成がきわめて不純であることや,コントロールとしての,生理的な気道内分泌物の性状を知ることが困難な点などをあげることができよう。
痰は気道内分泌物を基盤にして,それに外来物質,炎症性産物などの夾雑物が混じ,さらに唾液による被覆が加わったものである。かくして痰の性状は,疾患別による差異はもちろんのこと,同一疾患患者さらには同一症例においてさえ,採痰時の状況により変化を示すことが推測され,気道内の存在部位によっても物理的性状の差異を示すといわれている5)。
痰の粘稠度の如何は,痰が切れにくいという患者の表明と最も関係が深く,その測定は臨床的意義に富む課題であろうが,上述したような事項によって日常の診療から疎縁なものにしている。しかし現在までに若干の労苦がなされており,痰の粘稠度と呼吸器症状との関連について言及した報告6)もみられる。
筆者らは痰の粘稠度を計測し,慢性閉塞性肺疾患の病像との関係を検討すべく,まずそのアプローチとして,痰のレオロジカルな挙動について観察をこころみた結果,若干の知見と病態生理学的示唆を得たので,諸家の批判に供することにした。
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