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はじめに
運動開始直後は,運動筋へのO2供給が不十分であっても,しばらくそのまま運動を続けることができる。これは,いわゆるHill-Meyerhofのanaerobicな過程が進行するからであるが,数分以上経って,さらに運動を継続してゆくためには,呼吸,循環その他の調節によって,O2需給のバランスをとる必要がある。このように,ほぼO2需給のバランスがとれ,筋肉のaerobicな代謝が円滑に行なわれる運動をsteady state exer—ciseという。steady state exerciseでは,運動中のO2消費量を運動のenergy量,つまり運動強度の尺度として用いることができる。steady stateが成立するかどうかは,運動の型,強さ,体位,持続時間,性別,年齢,訓練効果,気圧・気温などの環境条件などによって異なるが,普通の人では,歩行運動のようなゆるやかな運動の場合には,数分以内にsteady stateが成立し,運動筋への酸素運搬機能(呼吸・循環),栄養素の代謝が安静時のレベルから一定度だけ亢進して,新しい平衡状態が生じる。しかし,これにも限度があって,ついには,疲労,筋肉痛,貯蔵養素の消耗などのために,無限に運動を継続することはできない。このように,steady stateの成立と存続には一定の制限はあるが,少なくともこれが成立している間は,呼吸・循環機能,体温調節機能,代謝レベルなどが,一定のfeedback systemによりこまかく制御されて,安定したレベルが維持されるから,安静時のレベルのset pointがある幅だけレベルアップされたものと考えることができる。非常にマイルドな運動ではsteady stateが容易にすみやかに成立するが,運動強度が大きくなると,いわゆるanaero—bicな運動が行なわれるために,oxygen debtを生じる。これは運動停止後すみやかに償却される。非常に強い運動では,運動中のO2消費量が恒定であるということと,運動が恒定であるということは,必ずしも一致しない場合がある。O2消費はその人のもつ最大値に到達すると頭打ちとなってしまい,このO2量に相当する以上の強い運動が課された場合には,乳酸が蓄積していくので,真のsteady stateとはいえない。これをチェックするには,血中乳酸最を調べるか,運動強度を少し強くしてみてO2消費が増加するかどうかを調べてみる必要がある。
以上のように,steady state exerciseは,安静状態から最大酸素摂取量に相当する運動までの種々の強さのものが含まれていて,それぞれのレベルでの恒定性が維持されるが,呼吸・循環機能や代謝がどのような形でレベルアップされるか,またこれらの調節はどのような機構でなされているか。この問題に関しては,古くから非常に多くの研究が進められているが,なお不明な点も多く,論争の的となっている事柄も少なくない。以下これらの研究の一部をとりあげ,その概要を紹介したい。
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